約束 ページ14
「あ、でもね」
さっきまでの辛そうな笑顔はどこへやら、けろりといつもの顔に戻った彼女が言う。
「徹のことが嫌いなわけじゃないから、その…ほんとに傷つけるとかじゃなくて、あくまでバレーで倒してほしいの」
「…俺と徹さんが戦う機会はあんの？」
さっきから『徹を倒してほしい』とずっと言われているけれど、まず戦う機会がないと倒すことなんて出来ないわけで。
そう訊いた俺に、彼女はにんまり顔で頷いてみせた。
「徹は、強いよ」
その意味が理解できずに首を傾げた俺に、彼女がふふ、と笑いかける。
「全国、行けちゃうくらいにはね」
「……全国」
俺らも去年の夏のインハイは全国で２位だった。
それなら、もしかしたら。
「インハイで、当たる……」
「かもしれない、って感じだけどね。宮城結構強いとこ多くて」
「……俺らも、強いで」
彼女は、俺の言葉にその大きな目を更に丸くして驚き、うん、と頷いた。
絶対インハイ予選勝ち抜いて、徹さんをぶっ倒す。
正直、なんでそこまで自分が本気になるのかはよく分からない。
でも、彼女の笑顔を見ていたら理由なんていうのはどうでも良くなった。
「でもね、」
穏やかな笑みを浮かべた彼女が真っ直ぐに俺を見る。
「死ぬつもりなのは変わらないよ」
「…」
余裕そうな表情とその言葉が妙に不釣り合いで。
なんでこの人はこんなに“死”に執着するんやろ。
「卒業するまでには死ぬって決めてるんだ。どうせこの頭じゃ大学行けないから」
へらりと笑ってこんこんと自分の頭を叩く。
その強い意志は、俺の軽い言葉じゃどう頑張っても曲げられない気がした。
「…俺が徹さん倒すまでは、死んだらあかんよ」
「ラッキーデッドは許してね。神様のいたずらだから」
ラッキーデッド……神様のいたずら……て、風に突き落とされる、ってことか。
呆れ顔の俺に、彼女が笑いながら小指を立てた右手を差し出す。
ゆびきりげんまん、ってやつ。
「あなたも頑張ってね。約束」
「ラッキーデッドなんて許さんからな」
その弱々しい小指に小指を絡める。
青空をバックに笑った彼女は、本当にめちゃくちゃ綺麗だった。
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作者名：えのきのこ | 作成日時：2019年5月21日 19時
