心の睨めっこ(2)

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俺が奈央さんに話したんじゃ無いとわかれば、山田の態度は普通になった。


ただ、その表情は何処か冴えない。



まぁそれも、当然だろう。

有名人でもなんでも無い山田の素性が、お互いの存在を知ってまだそんなに日が経っていないのに、自分の事を、あまり知られたく無いであろう事までを知られているのだから。






『本当に自分で言った覚え無いわけ？』

「無い。」

『んー……。』






俺が考えたところで、答えなんか出るはずが無い。


俺だって、奈央さんの事をめちゃくちゃ詳しく知っているわけじゃない。
知ら無い事の方が多い。







『…わかった。』

「え？」

『俺から、奈央さんにさりげなく聞いてみる。お前、自分じゃ聞きにくいんだろ？』

「まぁ…。」

『じゃあ、今度行った時、聞いといてやる。』

「今度って、いつ？」

『…さぁ？』

「はぁ！？」

『あー、でかい声出すな。なるべく早く行くから。言っとくけど、俺だって暇じゃ無いんだからな？』

「ここまで来る暇はあるのに？」







ムカつくから、両頬を思いっきり引っ張ってやった。




それから、奈央さんの話をする事はなかった。

ご近所さんの飼い犬が子犬を産んだとか、この間お店に来たお客さんとまた喧嘩したとか、くだらない話をし、山田が晩飯を作ってくれるというから、キッチンへ。





うちよりも狭いキッチン。

でも、うちのキッチンよりもすっきりしているように見えるのは、必要最低限の物しか置かれて無いからだろうか。







『そういやさ。最近、寝れてる？』

「…ぼちぼち。」

『薬は？』

「週に１回ぐらい。」

『そ。』







小さなカゴの中に置いてあった薬の袋をひっくり返ても、中にはたくさんの薬が残っているから、山田が言っている事は本当だろう。



特に話す事が無くなったところでリビングに戻り、ぐるっと改めて見渡してみた。

本当に必要最低限の物しか置かれていない。



小さな本棚があるが、うちのように漫画なんかじゃなくて、ドイツ語の本ばかり。

絵本っぽい物もあれば、小説っぽい物まである。







『やべっ、』






簡単そうな絵本タイプの本を取り出した時、手紙のような物がヒラヒラといくつか落ちてきた。


” Happy Birthday "と丁寧な字で書かれているそれは、差出人は不明だけれど、ゲルゼンキルヘンの住所が書いてある。

たぶん、あの孤児院の住所。



てことは、これは母親からの手紙…？

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