【ONEPIECE】LORELEI in the MARINE【コビー】 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:2,876 hit

病室ページ5

水底から浮上するかのような、非常にゆっくりとした目覚めだった。
見慣れぬ白い天井。ツンと鼻を刺す香り。清潔な部屋。目線だけで、周囲を確認する。遠くで人の声がする。怖くはない。優しげで、温かい。時々、笑い声もした。

呼吸は良好。思考も冴えてきた。改めて、自身は見慣れぬ場所へ居るのだと解った。
前言撤回。身体が怠い。横たわっている時は分からなかったが、起こすと酷く重かった。血を流したのだろうか。鋭い痛みが、肩辺りを刺激した。
より深く、周囲を観察。白で埋めつくされた部屋に、浅葱の花瓶と、柔い色の花が映えた。閉じた窓に目をやると、銀髪の少女の姿が映っていた。首元には包帯が巻かれてある。

少女はそろりと足を地につけた。裸足には、些か冷たかった。重い身体を、壁沿いになんとか支える。踏みしめるように歩み、先程自身が映った窓へと移動した。目の前の光景が、写真を見るように曖昧であった。

鍵へと手を掛ける。軽い音を立て、あっけないほど簡単に、それは外れた。
軋みもない、美しい硝子窓を、そっと開いた。ふわりと、潮の香りが、風に乗ってきた。カーテンがはためく。優しく髪を撫でる。
少女は1歩2歩と、後ずさった。暖かで爽やかな風。遠くで聞こえる笑い声。眼前に広がる海。

｢ああ……｣

少女は顔を覆った。被りを1つ振った。
何か呟いて、彼女はその場に崩れ落ち、静かに泣いた。
看護師と思われる女性が、室内に入り、崩れ落ちた少女の肩を支える。声をかけるが、少女は声にならない声を繰り返していた。
やっと自由になれたんだ。そう言った気もしたが、風に攫われて言葉は消えた。