４８ ページ49
ああ。
出来れば隠しておきたかったのに。
でも、そう聞かれて不思議と、これ以上柚希に対して誤魔化す気にはなれんかった。
「…うん、付き合ってる」
柚希の目がいっぱいに見開かれた。
「あ、そ、そう…なんですか」
「…黙っててごめん」
「えっ、じゃあその、たぁ兄先輩ってその、そっちなんですか？」
「や、ちゃうけど」
戸惑いつつ答えると、柚希が息を飲んだ。
「…それじゃ、同情？」
「は？」
「だって、男が好きって訳じゃないんだったら、章ちゃん先輩のことだって好きになったわけじゃないじゃん！」
それは、俺が一番負い目に感じてること。
心臓のど真ん中に突き刺さって、めっちゃ痛い。
「そんなの恋じゃない
だから…だったら私、諦めなくても」
「いい加減にして」
強めに遮ると、柚希は肩をビクッと震わせた。
好きやないのにだなんて、そんなの何回も考えた。分かりきってるよ。
でも
「付き合うって決めたのは、俺の意思やから。
同情なんかとちゃう」
きっぱりと言い切る。
好きとも、恋だとも言ってない、よく考えたら残酷なセリフ。
やけど少なくともその言葉は、紛うことなき本心やった。嘘は一個もない。
「あ、そ、そう…なんですね。すみません」
「…ええよ、俺の方こそごめん、きつく言ってもうて」
「いや！それは私が軽率なこと言ったから…あ、二人のこと誰かに言ったりはしないんで、そこは心配しないでください」
「あ、ありがとう」
何となく気まずーくなって、お互いに俯く。
もし、出会うタイミングが違ったら。
柚希と再会したもう少し後に、章 大に出会ってたら
柚希と普通に恋愛して普通に結婚する未来なんてのも、あったのかもしれない。
でも少なくとも今世の現在の俺は、そんな未来に興味はなかった。
それだけのこと。
「…今日は、もう帰りますね」
「うん」
「…じゃあ、また学校で、かな？」
柚希は、少し泣きそうな顔をしとったけど、気づかないふりをした。
俺も残酷になったもんやな。ほんまに。
(何とか乗り切った…)
ほっと一息ついて足早に帰路を急ぐ俺は、
もうとっくに自分が、あいつに抱えきれない程の不安を植え付けてることなど、知る由もなかった。
…ある日バイトから帰ってきて
荷物がまるっきり少なくなってしまっている部屋を見るまで
ほんまに、気づきもしなかったんや。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 249人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ゆ(プロフ) - よつげさん初めまして。全部完結まで読みました。これからも頑張って下さい。そして緑青のお話好きなので忙しなければまた書いて下さい！これからも楽しく読まさせていただきますね。 (2020年6月20日 6時) (
レス) id: f7e2b3d28c (このIDを非表示/違反報告)
雨悠(プロフ) - 伝えてないだけでちゃんと大切に思ってるのがわかって安心しました！毎日楽しみにしています！！！ (2020年6月10日 15時) (レス) id: de14c26198 (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - こんばんは。今回のオクラさんサイドのお話、私が思うよりずっとやすすはオクラさんに愛されてたんやな…と感慨深く見守っております。全然長くなってもいいんですよ！中編挟んじゃっても（笑） (2020年6月8日 0時) (レス) id: a88f73c135 (このIDを非表示/違反報告)
jp8727(プロフ) - この作品を見るのが楽しみでしょうがありません...！！これからも楽しみにしてます、頑張ってください！ (2020年6月6日 23時) (レス) id: 541558513a (このIDを非表示/違反報告)
ころん(プロフ) - よつげ腐垢さん！待ってましたo(^▽^)o結末を知ってるはずなのにドキドキそわそわしちゃいます！また二人が幸せになるまで見守りたいです、応援してます(*^^*) (2020年6月1日 22時) (レス) id: 622f97ce5e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：よつげ腐垢 | 作成日時：2020年5月27日 23時
