シャングリラに綴る戯曲【掃き溜めの星】

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「言ってる事無茶苦茶ですよ。てか、そんな死んだ目で言われても説得力無いですから!」
「媚び諂う事も、生きる上では大事だよ。誰しも純潔のまま死ぬ事は出来ないから」

　そう言うと、斎槻はナプキンの王冠を崩して膝に掛け、カルパッチョの乗った皿を手に取る。瑠璃歌は不満を表情に滲ませながら、彼と同じ様にナプキンに手を掛けた。
　スモークサーモンがメインのカルパッチョは、サーモンの塩気とソースに使われたレモンの酸味が程良く合わさり、爽やかで非常に食べ易い一品。前菜なのだからワインの一杯は欲しいものだと斎槻は内心でごちたが、そのあまりの美味しさに不機嫌な表情を一瞬で綻ばせる瑠璃歌を見て、その考えはすぐに改めた。未成年者の手前、飲酒はあまり好まれない。
　黙々と食べ進める中、ふと何かを思い出したかの様に瑠璃歌は少しばかり食事する手を止めた。

「今思ったんですけど、服装も一年前に着ていた物ですね。今この服着てないから、凄く懐かしいです」
「そう言えば、そうね」
「場所と言い服装と言い、まるで過去の世界に居るみたいだな」

　カチャカチャと食器の音が小さく響く店内で、食べ物を口に運びながら改めて自分達現状を確認する。
　服装や装飾品、叶愛の店、斎槻と言う存在。そのどれもが懐かしく、既に失われた物ばかり。本当に一年前に戻ってしまったかの様だった。

「一年前って、色々あったのね……」

　こうして見ると、彼等は守った物より失った物の方が多かった。両親、親友、仕事、居場所、罪無き命達……自分を培ってきたそれ等を代償に支払って築いた新世界は、果たして幸福な世界だっただろうか──否、幸せには程遠い。 あれだけ望んだ“大人が居なくなった世界”は、滅び切った最果ての、絶望郷に限り無く近い世界。踏み潰された司法、悪化する治安に環境汚染、絶えず生み出される憎悪の連鎖。新しいこの世界は、余りにも悲劇的で喜劇だった。
　彼等は純朴だったが故に、それを成し遂げる事の意味とその結末を失念していた。こうなる事が予測出来た筈なのに、どうして誰も気付けなかったのだろうか。
(……それは、僕達がまだ子供だったからじゃない?)
　それは愚直の果てに辿り着いた苦い勝利と言わざるを得なかった。子供は時に残酷な事を仕出かすと言うが、今回の件はそれが如実に出でしまったのだろう。二度とこんな過ちを繰り返してはならない。肝に銘じるとは、正に今この瞬間を言うのかもしれなかった。

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