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すると、そこには三つ編みのブロンドヘアを揺らし、楽しそうに鼻歌を歌いながら鍋と向き合う長身の男が居た。これまた見知った人物であった。
「一郷さん?」
「ん? ……あれ、誰かと思えばいっちゃんじゃない! どうして此処に……と言うか、本物!?」
「え、ちょっ……ま、一郷さん止めて!」
中性的な容姿をした男──一郷叶愛は鼻歌を中断し、慌ててキッチンから飛び出し、斎槻の元へ駆け寄るや否や肩を掴んでブンブンと身体を揺する。
一郷叶愛は斎槻と同じくRebel Armyに所属し、直属の部下として共に新世界創造を目指した戦友でもある。いつだったか、真夜中の街で「俺も連れて行って欲しい」と深々と頭を下げられて、仕方無しに拾った日の事を思い出す。まさかこうしてベタベタと付き纏われる事になろうとは、当時の斎槻も想定していなかっただろう。
激しく揺すられる中、何とか叶愛の手を叩いて止めさせる。「あら、ごめんなさい」と悪びれず笑顔で謝る叶愛に若干の苛つきを覚えながら、暫くの間ぐわんぐわんと歪む視界と吐き気が収まるのを待った。脳味噌スクランブルにするつもりか、お前は。
「本物のいっちゃんよね? 幻影とか、そっくりさんとかではないわよね?」
「正真正銘の本物ですが」
「でも、あの時……」
瑠璃歌が言い淀むのも無理はなかった。
一年前、灼熱の季節に起きた最終決戦。燃え盛る夜の東京、消え去った秩序、失われた数多の尊き命。その果てに迎えた小さな世界の終焉でその男は人知れず姿を消し、誰に看取られる事も無くひっそりとこの世から去った。 誰よりも旧世界に囚われていた男──翠斎槻は、彼等にとって過去の人なのだ。
その人が今、目の前にいる。それを疑うのは、事実を知る二人には当たり前の事だった。
(そう言えば、この二人は最後に僕を見送ってくれた二人だったな)
訝しげな様子の瑠璃歌と叶愛を見て斎槻は硝煙が立ち込める記憶を掘り起こすと、思えば消える直前の彼を知る二人である事に気付く。遺産の一部を叶愛に譲り、ある事を瑠璃歌に託したあの日。彼はこの言葉を贈った。
“Il n’ y a pas d’âge pour réapprendre à vivre.On ne fait que ça toute sa vie.”
その言葉の真意は、彼のみぞ知る。
「ゆ、幽霊とか……?」
「さぁ? どうでしょう。でも、僕は紛う事無き翠斎槻だ。それ以上でも、それ以下でも無いさ」
「フフ。まぁ、どちらでも良いんじゃない? こうして会えたのも何かの縁よ」
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十二月三十一日(プロフ) - ドットコムさん» 二人がどの様な話をしているかはご想像にお任せします。いつか右京さんが少しでも救われる日が来る事を願っております。此方こそ有難う御座いました。 (2020年6月12日 1時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - ドットコムさん» お久しぶりです。本作をご覧頂きまして有難う御座います。あれから二年、斎槻も居なくなって二年、結構な月日が経ちましたね。今回も懲りずに名前をお借り致しました。話題にあげたかったのですが、どうするか悩んで結局曖昧な感じにしてしまいました。 (2020年6月12日 1時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - 松宮カナメさん» 同年で且つ組織内最年長だったのもあってあげさせて頂きました。何とか浅葱さんの結婚について突っ込ませたかったので、懲りずに名前をお借りしました。此方こそ、有難う御座いました。 (2020年6月12日 1時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - 松宮カナメさん» お久しぶりです。本作をご覧頂きまして有難う御座います。あれから二年も経つのですね。書いている最中も干渉に浸っておりました。名前の順については一応レブル縛り、リロードにいる事を前提にあげてますが、何となくミルクさんの次は浅葱さん辺りだろうなと。 (2020年6月12日 0時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
ドットコム(プロフ) - お久しぶりです。淋の親です。更新内容拝見しました。うるうるきてます。いつもありがとうございます。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 3561a5869c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年7月12日 2時