シャングリラに綴る戯曲【掃き溜めの星】

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協力してくれた東雲達には言わなかった癖に、婚約者には言うのかと脳裏に憎たらしいあの男の声が再生されたが、それを承知の上でだ。お前も隠してたんだからおあいこだ、なんて宛てる相手も居ない軽口を忘れずに。

『聞いてて、私は思うの』

　並んだ料理の前で合掌し、二人揃って「頂きます」の言葉を口にする。今日の献立はハンバーグにコールスローサラダ、コーンスープ。箸で割った一口分のハンバーグを口に入れると溢れ出る肉汁と程良い塩味に、思わず笑みを零す。元から絢音の料理はどれでも美味しいが、日に日に料理の腕が上達していく姿を間近で見られる自分はとんだ幸せ者だと浅葱は思う。刹那、彼女の怖い弟君が脳裏で顔を覗かせた様な気がしたが、多分気の所為だろう。
　食事を進める中、不意に絢音が口を開いた。浅葱は箸を止めず、彼女の声に耳を傾ける。

『二人は運命の糸で結ばれてたんじゃないかなって 』
『運命?』
『うん、何となくね。けど、赤い糸みたいなそう言うロマンチックな感じでは無くて、運命共同体って感じかな。例えば、何方か一人が地獄に堕ちたとしても、もう片方も片割れを求めて地獄に身を投げる、そんな重たいもの』
『どっかで聞いた話だな』
『ふふ、そうだね。二人にとっての運命の相手って言うのは、文字通り人生に於ける吉凶禍福を左右する相手なんじゃないかなって』

　「つまりは選べなかったんだよ」と苦笑する絢音に、浅葱はコールスローのキャベツを咀嚼しながら納得する。
　金剛花陽が恋人を作らなかったのは、翠斎槻の存在と影響力があったから。翠斎槻と言う運命的な相手と出会ってしまったから、あの男しか選べなかった。その逆も然り。
　本来であれば、運命の相手に巡り合う事は奇跡的で幸運な事だ。人生を凡そ八十年程度と仮定しても、巡り合えるかどうかも分からない相手なのだから当然だろう。勿論、浅葱も自分が絢音にとってそんな存在であって欲しいと願わなくもない。然し、運命がお互いの全てを縛る足枷であるのなら、浅葱はそんなもの真っ先にかなぐり捨てたいと思った。巡り合ったら最後、その命を削り切るまで捨てられないのなら尚更だ。
　だから、お互いが運命だと悟った瞬間、あの二人の末路は決まっていた。

『恋愛漫画とかドラマとかで言う運命って、凄くロマンチックで良いなって思っていたけど、本当は違うんだって手紙の内容から想像が付くわ。二人にとっての運命とは、最大の不運だったのね』

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