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まず、便箋の材質やデザイン、ペンのインクも他の四枚と全く同じものが使われているのだが、一度グチャグチャに丸めてから再び広げられたかの様にボロボロで、端が不恰好に丸まっていたり、破れている箇所もある。他にも、水滴か何かで濡れてインクが溶けてボヤけている部分もあった。又、内容も一見何ら変わらない言葉で翠斎槻との思い出話が綴られていると思いきや、中盤から徐々にあの穏やかで誠実な文面は崩れ始め、最後には一通り暴れ散らかした様に荒々しいものになっている。彩る字体もまるで別人が書いたかの様に書き殴られ、読めたものではなかった。便箋も内容もグチャグチャな五枚目を初めて読んだ時、浅葱は静かに息を呑んだ。そして、静かに悟った。これは、“ラブレター”だと。
何故、こんなにも感情的な文がこの中に入っていたのかは分からない。だが、気付いた当初は、随分と熱烈なファンが居たもんだなと笑ってしまった。あの薄情で冷血な男に付いていく女とか、どんな物好きな変人だとも。
でも、不思議と想像が出来た。もし、この新しい世界で翠斎槻が生きてたのなら。そんなタラレバを。
もし生きていたのなら、彼は金剛花陽と一緒になったのだろうか。恋人を作る想像が付かないぐらい禁欲的で高潔な彼だが、彼女が相手だと何故か照れ臭そうに紹介する彼の姿が容易に思い浮かぶ事が出来た。お似合いと言う訳では無い。只、不思議なぐらい“しっくり来る”。隣に居るのが当たり前の様に感じる程度には。
もし二人が結ばれる事があったのなら、今も変わらず自分達と共に歩んでくれただろうか。金剛花陽は無能力者だが、翠斎槻が選んだ相手ならば、皆喜んで歓迎しただろう。否、あの二人は喜ばないかもしれない。でも、彼女ならすぐ此処に馴染むだろう。桃の店の手伝いをしたり、絢音と一緒に買い物をしたり、時には右京と一郷とお茶会なんかもして。ラビッシュの元隊員達ともきっと上手くやれる。異能力者と無能力者を繋ぐ架け橋になれたのかもしれない。
『でも、そうはならなかった。貴方が望んだ未来は来なかった』
「そうでしょ?」と夕食を並べる絢音が首を傾けながら浅葱を見遣る。
いつだったか、この五枚目の内容だけを絢音にだけ共有した事があった。自分なりの見解やもしもの話、感想を述べた浅葱は、何となく当時婚約者となったばかりの絢音の意見も聞いてみたくなったのだ。
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十二月三十一日(プロフ) - ドットコムさん» 二人がどの様な話をしているかはご想像にお任せします。いつか右京さんが少しでも救われる日が来る事を願っております。此方こそ有難う御座いました。 (2020年6月12日 1時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - ドットコムさん» お久しぶりです。本作をご覧頂きまして有難う御座います。あれから二年、斎槻も居なくなって二年、結構な月日が経ちましたね。今回も懲りずに名前をお借り致しました。話題にあげたかったのですが、どうするか悩んで結局曖昧な感じにしてしまいました。 (2020年6月12日 1時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - 松宮カナメさん» 同年で且つ組織内最年長だったのもあってあげさせて頂きました。何とか浅葱さんの結婚について突っ込ませたかったので、懲りずに名前をお借りしました。此方こそ、有難う御座いました。 (2020年6月12日 1時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - 松宮カナメさん» お久しぶりです。本作をご覧頂きまして有難う御座います。あれから二年も経つのですね。書いている最中も干渉に浸っておりました。名前の順については一応レブル縛り、リロードにいる事を前提にあげてますが、何となくミルクさんの次は浅葱さん辺りだろうなと。 (2020年6月12日 0時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
ドットコム(プロフ) - お久しぶりです。淋の親です。更新内容拝見しました。うるうるきてます。いつもありがとうございます。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 3561a5869c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年7月12日 2時