シャングリラに綴る戯曲【掃き溜めの星】

├ ＊ ページ31

中央を陣取る人物は、嘗て世間を騒がせたRubu:Armyの首領にして、現在は異能力社団法人Scenaで社員を勤めるミルクこと白瀬。そして、端の方で隠れて写る男性が、先程名前が上がった翠斎槻である。

　オリーブグリーンの髪に琥珀色の瞳を持った、いつも不機嫌そうに顔を顰めながらカメラから視線を逸らす姿が、少年にとっての翠斎槻であった。彼は生前の話を聞いていても外見に違わぬ気難しい性格だった様で、過去のあれそれを思い出しては苛ついているのか悲しいのかよく分からない浅葱の複雑な言動をよく耳にする。傲慢で孤高、融通が利かなくて、寂しそうな人。出会ってもいないのにこんな評価をするのは失礼だと分かっていても、面白いぐらいイメージ通りだと少年は認識している。一度で良いから、彼と会って話してみたかったとも。
　そして、軽率に翠斎槻の話をする浅葱も浅葱だった。そんなに腹立たしいのなら話さなければ良いのだが、彼は定期的にレブルや翠斎槻の話をしたがった。初めは、二年前の惨事を再び起こさない為の教訓として語っているのだと思われていた。勿論、そう言う意味も込められているのだろう。然し、次節何かを思い出したかの様に話し出す姿は、教訓として語ると言うよりも忘れたくないから語ると表現した方が近い様にも思える。恐らく、彼は覚えていたいのかもしれない。そうでなければ、あの写真が色褪せてしまう程額縁に飾ってはいないのだから。
　その今は亡き翠斎槻の元に、金剛花陽は居る。つまり、彼女が故人である可能性を指し示していた。読んだ手紙の文章にはそう言った文言は一切無かったが、もし彼女が失踪する直前に送ったものだと推測すれば、浅葱がこの手紙を遺書だと形容するのも納得はいく。

「でも、何で、その、翠さんの手紙を院長が持ってんですか?」
「忘れ形見として受け取った。と言うよりも、この手紙はオマケで付いてきたって感じ。本命はこれ」

　そう言って浅葱はオフィスチェアから立ち上がると、壁際に置かれた簡易的な棚に置かれた小さな箱を取り出し、少年の目の前にあるローテーブルに置くと、向かい側の一人掛けソファに座る。
　複雑な幾何学模様が描かれた木製の小箱は丁度手紙が収まるぐらいの大きさで、不思議な事に蓋を取り外す為のつなぎ目が無い。保存状態が良くなかったのか、角が欠けていたり、色が剥げてしまっている所もあるが、いつまでも見ていたくなる魅力があった。

「結構年季が入った箱ですね」

├ ＊→←├ ＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す