シャングリラに綴る戯曲【掃き溜めの星】

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「まぁな。そうする癖が付いていたんだろう。俺は宛名主をそれなりに知っているつもりだが、実際には理解出来ていない部分も多い。だが、その手紙の中で唯一消されていなかった名前があった。送り主の名前が記載されていたからなのだろうが、何故消していなかったのかは未だに分からない」
「消し忘れとか?」
「さぁ? そしたら、もう少し可愛げがあっただろうに。兎も角、その名を手掛かりに当時レブルの司令隊隊長の東雲に調べてもらった」

　教育学院が出来たばかりの頃、一度だけ合った事がある眼鏡を掛けた男性の仏頂面が脳内に浮かべる。あの人司令隊の隊長だったのか、と少年が漠然と思い出している最中、浅葱は神妙な面持ちでその名を口にする。

「送り主の名は花陽。金剛花陽と言う」


＊


　──。貴方や貴方達の行い全てを許容する程、この世界は甘美な蜜の様に甘くはないし、暖かな揺り籠の様に優しくはありません。世間は白い目で貴方を見つめ、社会は貴方と同じ刃を以って傷付け、国家は遠い北の大地よりも冷たい場所へ貴方を追放するかもしれません。
　暴力は、誰しもが持ち得る一種の言語に近しい手段だと思うのです。何故なら、その圧倒的な力に人々は屈し、その効力を知った人々は更なる暴力を生む。そして、貴方や貴方達はそこに正しさを求めるのでしょう。蛮行とはこうして生まれるのです。
　だから、──。暴力を、その力を過信しないでほしい。蛮行を振るう先には、きっと何も無いから。


＊


「金剛って厳ついっすね」とほけほけと言う少年に思わず同意してしまった浅葱は、すぐに「そうじゃない」と冷静にツッコミを入れると、すぐさま話の軌道を戻す。

「彼女は、宛名主の高校時代の同級生だった。だが、それ以外の関係性は一切不明だな」
「分からなかったんですか?」
「調べてみたんだが、情報はほぼ皆無に等しかったな」
「でも、これは遺書なんですよね。それを送っているって事は……」
「仲はそれなりに良かったらしいと、二人の知人や同級生は言っていた。友達同士ってとこか。だが、高校を卒業したらそれっきりだったそうだ」

　浅葱の回答に、少年は期待外れと言わんばかりにガッカリし、ソファの背凭れに脱力した。だが、そう思うのは何も少年だけと言う訳ではなかった。
　この手紙の解析に当たり、浅葱は同僚であった東雲の他にも、元ラビッシュ司令隊隊長の神無月と肉体を失いながらも小さな電子端末の中で生き長らえていた星崎にも協力を煽っている。

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