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斎槻が思う一つの問いに、男は十以上の答えを返した。汗を掻いたグラスがすっかり乾いてしまう程長く、じっくりと。まるで古馴染みと遠い昔話をする様に会話を楽しみながら、どんなに些細な事柄でも淀む事無く男は答え続けた。
彼等が滞りなく会話を続けて何時間経ったかは分からない。ふと「そっか……」と呟くを最後に、斎槻は男に合わせる様に話し続けていた口を閉じた。それと同時に先程まで止まる事を知らない激しい流水の様に滑らかに話していた男も、今や断水した蛇口の様に何も言わなくなった。聞こえるのは時間を刻む時計の秒針の音だけ。
沈黙してから数分後。静寂に堪え兼ねたのか、観念した様に斎槻は言う。
「……タイムリミット、だ」
男は改めて斎槻を見て、ハクリと息を飲んだ。辛うじて原型を留めて居た斎槻の足が既にそこには無かった。よく見ると全体的にぼんやりと透けていて、ゆらゆらと陽炎の様に揺れている。和室に入り込んだ西日が斎槻の身体をいとも容易く通り抜け、一切の影も形も残さず、その先の畳と壁を照らしていた。
彼は消える、消えてしまう。その事実を噛み締める様に、喋り続けて若干嗄れてしまった声で男は「ありがとう」と努めて笑顔で言う。
「良い暇潰しになったよ」
「そうか」
「又、こうして話せれたら良いんだけど」
「無理だ」
「……だよね」
残念そうに呟かれた言葉と願望は風の音と共に霧散した。形あるものがいつか壊れてしまう様に、永遠と言うものは存在しない。分かっていても、彼と別れてしまうのはどうにも惜しかった。だが、時は無情にも斎槻を時代の波に攫おうとする。抗い様のない現実に、男はガックリと肩を落とした。
しかし、本来一番悔しがるであろう当事者は、曇天の空が突然の暴風によって一気に眩しくて澄み渡る様な青を覗かせた時の様な晴れやかな表情をしていた。後悔は無いとでも言う様に。
「僕も楽しかった。彼等が作り上げた新世界の事が知れて、満足だよ」
「……そう。それなら、良かった」
男は俯いていた顔を上げる。既に斎槻の身体は原型を留めず、空に浮かぶ虹が消える様に安定感無く浮かんでいた。
「最後に」と斎槻の姿をした“何か”は問う。
「新世界で生きる、君の名前は?」
男は目を丸くするが、やがて屈託の無い、満面の笑顔で答えた。
「
返答は無い。
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十二月三十一日(プロフ) - ドットコムさん» 二人がどの様な話をしているかはご想像にお任せします。いつか右京さんが少しでも救われる日が来る事を願っております。此方こそ有難う御座いました。 (2020年6月12日 1時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - ドットコムさん» お久しぶりです。本作をご覧頂きまして有難う御座います。あれから二年、斎槻も居なくなって二年、結構な月日が経ちましたね。今回も懲りずに名前をお借り致しました。話題にあげたかったのですが、どうするか悩んで結局曖昧な感じにしてしまいました。 (2020年6月12日 1時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - 松宮カナメさん» 同年で且つ組織内最年長だったのもあってあげさせて頂きました。何とか浅葱さんの結婚について突っ込ませたかったので、懲りずに名前をお借りしました。此方こそ、有難う御座いました。 (2020年6月12日 1時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
十二月三十一日(プロフ) - 松宮カナメさん» お久しぶりです。本作をご覧頂きまして有難う御座います。あれから二年も経つのですね。書いている最中も干渉に浸っておりました。名前の順については一応レブル縛り、リロードにいる事を前提にあげてますが、何となくミルクさんの次は浅葱さん辺りだろうなと。 (2020年6月12日 0時) (レス) id: b1d15496af (このIDを非表示/違反報告)
ドットコム(プロフ) - お久しぶりです。淋の親です。更新内容拝見しました。うるうるきてます。いつもありがとうございます。 (2020年6月11日 21時) (レス) id: 3561a5869c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年7月12日 2時