シャングリラに綴る戯曲【掃き溜めの星】

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箱と物で埋め尽くされた空き部屋を見て、男が思わず天を仰ぎ見たのは言うまでも無い。

　こうして辛うじて役割を果たしている収納と空いていない空き部屋を片付ける事、一時間。収納の中に作られた巣窟は元々ダンボールから出された物や生活必需品等で構築されていた為、割とすんなり片付ける事が出来た。此処までは男の計画通りとも言える。
　しかし、ダンボールの山はそう簡単には行かなかった。まず箱を開封して中身を取り出し、そこから必要なものとしまうものを選別。そこから各物品毎に決まった場所に置くなり収納するなりを繰り返した後、空のダンボールを解体する。極めて単純な作業ではあるが、侮ってはいけない。物によってはしまう場所に苦労する物──例えば、激安価格で売られていた為に大量購入してしまった雑貨品、男性が扱うには憚られる女性用の衣類や下着等。後者についてはそっと蓋を閉じ、ダンボールごと同居人である女性の部屋に置いておいた──があったり、組み立てるスペースが無い上に物でぐちゃぐちゃな部屋では置き場に困る家具類──本棚やラック、椅子等──があったりと大小様々な物品をたった一人で片付けるのだから、課せられたその労働量は計り知れない事をお察し願いたい。正直、男は何度も根を上げそうになった。
　又、ダンボールの端は地味に切れやすい。素手で作業をしていた男の手には既に無数の切り傷が付いており、更に切れない物で切っているので地味に傷口が痛んだ。きっと治りも遅い。どうしてトイレットペーパーは余る程あるのに、何故軍手だけ無いのか。その疑問は同居人の二人や過去の自分にぶつけた所で何の意味も為さない。それよりも手を動かす事の方が重要である。男はむず痒さにも似た痛みに耐えながら、両手で簡単に抱えられる程度の底の浅い小さなダンボールを持ち上げた。

　──カサッ。

「あ、れまぁ……」

　軽い何かが落ちる音がしたので足元を見下ろすと、すぐ近くに折り畳まれた鶴の折り紙が落ちていた。男はダンボールを一旦床に置き、折り紙を拾い上げる。
　その鶴は百均でも売られているような安価なちりめん折り紙で作られており、桃色、鶯色、山吹色と言った色鮮やかに印刷された和風な柄は、作られてからそれなりの月日が経っているのか日焼けと手垢が災いし少しくすんでいる。同様に嘴と尾の部分は湿気等で少しひしゃげている。若干黴臭い感じもする。

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