シャングリラに綴る戯曲【掃き溜めの星】

◆小話:相対、一人 ページ13

※一応、二周年記念小説。時系列が時代に追いついたね。
※本来なら有り得ない可能性と邂逅する話。
※本作の主役は前回の記念小説の最後に出てきた“彼”。
※別題「イメージカラー継承式(多分)」。

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　五月の中旬。長期に渡る黄金休暇週間は終わりを告げ、人々がいつも通りの生活に戻り始めた頃。まだまだ発展途上で娯楽が少ない東京都の壊滅区でも長い連休が開け、再び復興への長い道のりを歩み始めた有志達の声で賑わいを見せていた。
　そんな活気に満ちた壊滅区から少し離れた住宅街。近くに大きな公園が設営されたその場所は近隣の住民達の憩いの場でもある。その向かい側、道路を挟んである土地に現代的な家が建ち並ぶ中、少しばかり時代錯誤を感じさせる様な真新しい木造建築がひっそりと佇んでいた。よく見ると正面には大きな木製の引き戸と看板を取り付ける金具があり、その建物が辛うじて何かの店である事が分かる。それもその筈、此処は来月から開店を予定している現代ではかなり珍しい駄菓子屋なのだ。そして、その店主であり、この家の主人である冴えない風貌と丸眼鏡が特徴的な男は一人、家の中を整理していた。

　男は約一ヶ月前、壊滅区に出来た些か風変わり過ぎるこの新居に引っ越して来た変わり者である。他にも柔らかな雰囲気の女性が一人、二人の子供と言うには年齢的に噛み合っていない赤い髪が特徴の少年が一人がこの家の住人としてやって来ている。今や誰も寄り付かなくなった嘗ての戦地へ引っ越してくる等、余程変わっていて個性豊か過ぎる人達なのかと思いきや、 男を始め他二人も拍子抜けするぐらい普通であり、然し、何処か独特で和やかな空気感を醸し出す極めて普遍的な家族であった。
　閑話休題。そんな彼等が壊滅区に引っ越して来て以降、転居先での仕事探しから店を出す手続き、転校先である学校からの書類でてんてこ舞いとなっており、家の事が一切出来ていなかったのだ。居間や台所と言った日常よく使う部屋はそれなりに片付いているものの、襖を開けば突然の来客で慌てて隠した整理しきれてない物品の巣窟が、別の部屋の扉を開ければ積み重なったどれが誰の荷物かも分からぬ段ボールの巨大な山が築かれていた。その上、更に必要な物を買い足した物が約一ヶ月分。流石にこれ以上の放置は許されない事は明白だった。故に、本日の予定が完全にフリーであった男が所用で出掛けている二人の代わりに一日だけ家の一切を受け持ったのだ。

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