... ページ3
.
もう帰んなきゃ。マネージャー絶対怒ってるよ。
俺がそう言うと彼女はクスクスと可愛らしく笑った。
でもどこか寂しそうだった。
「また来てもいい？」
「はい、いつでもお待ちしてます」
「ありがとう。じゃあ、また」
「はい、また」
石段の前まで見送ってくれた彼女の方を振り返り、そっと手を握った。自分でもなぜこんなことをしたのか分からない。
細くて消えてしまいそうな綺麗な指を、存在を確認しておきたかったのかもしれない。
「汚いですよ。さっきまで瓦変えてたから...」
「全然、汚くない。
Aは綺麗だよ」
「...臣さん、私待ってますね。ずっと」
「うん、また、来るから」
その綺麗な冷たい手を名残惜しく離すと、彼女の手も俺の手を追うように空を描いた。
来た時と同じように苔の生えた石段を一段一段降りていく。
来た時とはまた違う気持ちで。
石段を降りきって鳥居をくぐる前に石段の上を仰ぎ見るとすっかり小さくなったAがこちらに向かって手を振っていた。
俺も微笑んで手を振り返す。
「Aーーー！また来るからーー！」
「臣さんーーー！待ってますーーー！」
普段出すことのない馬鹿みたいに大きな声が辺りに響いて、消えてった。
それから急いで撮影に戻ると俺の遅刻に慣れた様子のマネージャーは特に何も言ってこなかった。いつもと同じようにいつもと同じ時間が流れていった。
さっきまでの涼しい時間が嘘のように陽射しがコンクリートに反射して暑い。
まるでさっきの出来事は全くの幻だとでも言うように、額から流れた汗で濡れたまつ毛がゆっくりと下を向いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 102人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：めいこ | 作成日時：2018年12月14日 22時
