case1.HIROOMI.T ページ1
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知らない場所のはずなのに、どこか懐かしい気がして立ち止まる。
その場所を見つけたのは、仕事の撮影中の少しの休憩の合間に周りをブラブラと散策している時だった。
7月下旬の例年より暑かったらしいその日は、都会ではあまり聞こえないアブラゼミが忙しなく鳴いていた。
古めかしく塗装が所々剥げてしまっている鳥居をくぐると、これまた古そうなこじんまりとした本殿が見えてきた。
石畳や石垣にはそこら中に苔が生えていたが、地べたに雑草や落ち葉は見当たらない。こんな小さな神社でも誰かの手によって、毎日手入れされているようだった。
そして、不思議と鳥居をくぐるとそこだけ世界が切り取られてしまったかのように涼しい風が頬を掠めた。
さっきまでの暑さが嘘のようだった。
額に汗が浮かんでは流れ浮かんでは流れその繰り返し。後でメイクさんに怒られるなと思っていたのにその心配は無用になりそうだ。
お賽銭箱の前に立った時、突然誰かに話しかけられ咄嗟に後ろを振り向いた。
「あ、そっちじゃないです。こっちです」
「うわ、なにしてんの？」
「昨日の大風と大雨で瓦が外れてしまって。」
上から声が聞こえたと思ったら、本殿の屋根によじ登っていたその声の正体は俺と同じくらいの年頃の女の人だった。
確かに昨日はひどい雨だった。
台風が過ぎ去って、今はすっかり晴れているが今日の撮影が中止になるのではないかと心配される程だった。
「手伝いたいところだけど、服汚したら怒られるから」
「お気持ちだけ受け取っておきます。
珍しいですね、ここにお客さんが来るなんて」
「そうなの？」
俺がそう聞き返すと、瓦を直し終えたらしいその女の人はハシゴを伝って下まで降りてきた。
俺が想像していたよりも小柄で細かった。
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作者名：めいこ | 作成日時：2018年12月14日 22時
