今夜は月が綺麗ですね (ページ6)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:89,197 hit

悪い癖ページ6

.

マンションのエントランスに入ると
ふわっと暖かい空気に包まれた。

エレベーターはちょうど1階に来ていて
上ボタンを押すと、扉が開いた。

乗り込んで閉まるボタンを押そうとした時

「乗ります！！」

飛び込んできたのは丸山くんだった。

「あ、」

「あ、Aちゃん。お疲れ様」

しばらく屋上へ行くのはよそうと思っていたのに
結局会ってしまった。

同じマンションに住んでいるのだから
仕方ないのだけど。

「このまま屋上行かへん？」

「へ、」

「ひとりで晩酌寂しいからさ」

「…でも」

「明日休みやろ？」

「そうだけど…」

「じゃあ行こ」

その時ちょうど私の階について扉が開いたが
私が降りる前に丸山くんは閉めた。

私は丸山くんに気づかれないように
小さくため息をついた。

断りきれないのも私の悪い癖。

屋上に着くと丸山くんは
昨日私が座っていた場所に腰を下ろした。

私を見上げて隣に座るよう促す。

少し間をあけて座ると
丸山くんは少し笑って間を詰めた。

「はい。ビール飲めるよな？」

「飲める」

今更そんな確認をされて渡されたビールは
冷蔵庫から取り出したばかりみたいに冷たかった。

夜風に吹かれると
ビールを持つ手が余計に冷たくなる。

「じゃあ、乾杯」

「乾杯」

丸山くんの手が私の前に伸びてきたから
私は少しだけ傾けてビールをコツンと当てた。

丸山くんは満足したようにビールを飲み始めた。

「ちょっと寒いな」

丸山くんはひとりごとを呟く。

ちょっとどころじゃないけど…
内心そう思いながらも口には出さなかった。

隣には苦手な人がいるけれど

昨日よりも欠けてしまった月は今日も綺麗で
それを見ながら飲むビールはやっぱりおいしかった。

「Aちゃん今でも亮ちゃんと仲良いの？」

それまで静かに飲んでいた丸山くんは
口を開いたと思ったらそんなことを聞いてきた。

「まぁ…たまに飲みに行くかな。亮の気の向いた時に」

「ふーん。今亮ちゃん彼女おるやんな？」

「…うん」

「それでも2人で行くん？」

「え、うん」

「ふーん」

少し棘を感じる丸山くんの言葉に
少しドキッとして

そっちが聞いてきたくせに
ふーんって適当な相槌だけなのも気になって

それだけ？と丸山くんを見ると
パチッと目が合った。

.