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名前 ページ4

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昼間あれだけ暖かかったのに
朝晩はやっぱり冷え込む。


そんな季節。


太陽もすっかり沈み
野球少年たちも家へ帰ったあとの


誰もいない土手に、渋谷さんは今日もいた。





「渋谷さん」




ギターを抱えたまま振り返った渋谷さんは
「あぁ…」と小さく呟いた。




「これ。ありがとうございました」




カバンの中からハンカチを取り出して渡すと
ゆっくり手を伸ばし、受け取った。




「わざわざここまで来たん?」


「返し忘れちゃったので」


「明日でもええのに」




ふ、と笑って、ポケットの中へしまう。




「渋谷さんお家このへんなんですか?」


「そうやけど」




怪訝そうに私を見上げるから、




「さっきまでと服違うし、ギターも」




と付け加える。




「あ、そう。一旦うち戻って取ってきてん」


「そうなんですね」




渋谷さんはギターに触れ、
優しいアルペジオを鳴らし始める。


すっと心に入ってきて、
気持ちが穏やかになる気がした。


遠慮がちに歌う鼻歌さえ上手くて
渋谷さんの本気の歌声を聞いてみたい気もした。




すると、ふと歌とギターの音が止み、


渋谷さんは手元に視線を落としたまま
「浮気はする方が悪いと思うで」と、小さく呟いた。




「え?」


「瀬戸さんは悪ないってこと。別れて正解やったと思う」


「…私の名前知ってたんですか?」


「え、そりゃ知ってるやろ」




ぽかんとした顔で私を見る渋谷さん。




「でもあんまり話さへんし」


「何年一緒に仕事してると思ってんの」


「それもそうですけど…」




でも、名前で呼ばれたことないしな。


いつも、「あの」とか「すんません」とか。


まぁ言われてみれば、5年も一緒に働いていて
名前知らないなんてないだろうけど。





「…ありがとうございます。」


「え?」


「私は悪くないって、別れて正解やって。」





浮気される側にも悪いところはある、


どこかで聞いたそんな言葉に
少し胸を締め付けられていたところがあるけれど


渋谷さんの言葉に救われた。





「男の人って浮気する生き物って言うやないですか」


「せやな」


「あれってほんまなんですかね?」


「ほんまなわけないやろ。俺は絶対せえへんし」




呆れ気味にそう呟いて、
渋谷さんはまた歌い始めた。





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はるまる(プロフ) - のるさん» コメントありがとうございました!!いかがでしたでしょうか!次回作もぜひ(^^)! (2019年12月13日 18時) (レス) id: 74b7d9762d (このIDを非表示/違反報告)
のる(プロフ) - いいですねぇぇっぇぇえ (2019年12月10日 10時) (レス) id: f5d566c6da (このIDを非表示/違反報告)
のる(プロフ) - な…何があったんですか!? (2019年11月19日 17時) (レス) id: f5d566c6da (このIDを非表示/違反報告)
のる(プロフ) - この平和な感じ……いいですねぇ!続き楽しみに待ってます! (2019年11月18日 8時) (レス) id: f5d566c6da (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:はるまる | 作成日時:2019年10月13日 19時

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