土手 ページ1
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「え、今なんて……?」
冷たい風が身体に纏う。
秋はどこへ行ってしまったのか…
すっかり冬のにおいがする夜のことだった。
「別れよ、俺ら」
突然のように思われるそんな言葉を
どこか覚悟していたのかもしれない。
「……どうして?」
「…他に好きな人ができた。」
好きな人、じゃないでしょ。
心の中で小さく呟く。
好きな人、じゃない。
お付き合いしている、浮気している人、でしょ。
「わかった。」
「今までありがとう。楽しかった」
多分気づいていたんだ。
気づいていて、気づかないふりをしていた。
他に好きな人ができて、
浮気して、
私を邪魔ものだと思っていることに。
彼に背を向け歩き出した時、
頬に何かが触れた。
「雨かな、…雨やんな」
こんなにも星が綺麗なのに、
雨だと思い込もうとする私は、惨めだ。
__
_
気づけば、土手に来ていた。
昔よく遊んでいた場所。
穏やかな川が流れていて、
野球ができる広場がある。
最近はもうあまり来なくなったけれど、
なにかあるとふと立ち寄ってしまう場所なのだ。
こんな時間にいる人はそういないはずなのに、
どこかからギターの音と、歌声が、
風に乗って運ばれてきた。
私は引き込まれるように、その音を辿っていくと
「…渋谷さん?」
「え、……あ」
振り返ったその人は
職場の同僚の渋谷さんで
私が声をかけた途端に
ギターの音と歌が止んだということは、
それは渋谷さんが演奏していたっていうことで
少し意外だった。
渋谷さんといえば、静かで、
私が入社してから
かれこれ5年ほど経つけれど
挨拶と仕事の話以外したことがない。
でも仕事は正確で丁寧で
上司からも頼られている。
そんな人。
だから、ギターを抱えて私を見ている渋谷さんは
渋谷さんであって渋谷さんでないような気がした。
「…あ、こんばんは。お疲れ様です。…歌声が聞こえてきて、つい」
「そうっすか」
「少し聞いてもいいですか?」
「え、」
私の質問にあからさまに視線を泳がせる。
「ごめんなさい、なんでもないです」
慌ててそう言って
立ち去ろうとした私に、
「あの、」
「はい?」
「…どうぞ」
渋谷さんは小さな声でそう呟いた。
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はるまる(プロフ) - のるさん» コメントありがとうございました!!いかがでしたでしょうか!次回作もぜひ(^^)! (2019年12月13日 18時) (レス) id: 74b7d9762d (このIDを非表示/違反報告)
のる(プロフ) - いいですねぇぇっぇぇえ (2019年12月10日 10時) (レス) id: f5d566c6da (このIDを非表示/違反報告)
のる(プロフ) - な…何があったんですか!? (2019年11月19日 17時) (レス) id: f5d566c6da (このIDを非表示/違反報告)
のる(プロフ) - この平和な感じ……いいですねぇ!続き楽しみに待ってます! (2019年11月18日 8時) (レス) id: f5d566c6da (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はるまる | 作成日時:2019年10月13日 19時