綾瀬さんの葛藤 ページ28
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「私押しに弱いねん」
ふふ、と笑ってパンを口に入れる。
「大倉くんが何度も何度も私を口説きに来てくれて、その頃から惹かれてた」
「え、でも、」
「うん。でも大倉くんは遊び人で有名やったから。私ほんまに、次はいい恋愛するって決めてたから、自分の気持ちを押さえつけて、大倉くんを好きにならないようにしてた」
俺の行動は無駄ではなかったんやな…
と今更ながら知る。
「でも無理やねん。好きになるってさ、抑えられるものやないって知っちゃった」
綾瀬さんは小さく笑って、俺を見る。
「ごめんね。大倉くんがずっと待っててくれた時、嘘ついちゃった」
＿＿
＿綾瀬さんside
それは、月曜日のこと。
大倉くんを避けてたのに、
ずっと待っててくれた時の、あの日のこと。
「大倉ずっと待っとるで。これ帰らんのとちゃう？」
ヒナちゃんはちらちら入口の方を見ていた。
「困る。」
「ええやん、話せば」
今は会いたくないねん。
…ドキドキしたら困るから。
大倉くんは楽しい人だけど、
恋愛相手かって聞かれたらそうじゃない。
私はまじめな恋愛をするって決めてるから。
裏切られたり傷ついたりしない、
そんな恋愛をするんだ。
「…ヒナちゃん、一緒に帰ろ」
「はぁ？」
「ご飯いこ。ていうか、ご飯いくってことにして一緒に帰って」
「なんやねんそれ、大倉の気持ちは」
「お願い、協力して」
「…ええけど」
ってわけで、
ヒナちゃんと一緒に出ると、
大倉くんはほんまにまだいて
大倉くんの姿を見たら
またこないだのドキドキが、
大倉くんの温もりが、
蘇ってきて、良くない。
やっぱ良くない。
会えない。
「綾瀬さん」
って呼び止められて、
心臓は高鳴るし
もう答え出てるやんって思うけど、
でも、
…でも。
「…ありがと、ヒナちゃん」
「好きなんちゃうの？綾瀬」
「え…？」
「大倉のこと」
ヒナちゃんにバレるとか、ありえないんだけど。
あの鈍感なヒナちゃんに…？
「…好きじゃない」
「そーか」
好きじゃない。
好きになりたくない。
自分の気持ちに正直になりたくない。
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作者名：はるまる | 作成日時：2019年6月5日 20時
