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｢精市、｣
｢太陽の街｣
という言葉が、精市の口から出るとは思わなかった。
私は精市と一緒に過ごせて幸せだ。
彼が居てくれれば、何も要らない。
私は今の生活が幸せで、充分なんだ。
｢太陽の街｣とは、なんなのか。
簡単に言えば、幸せな街。
幸せな者には、見えないし決して現れない場所。
｢太陽の街｣なんて名前は、
何時しか誰かがそう呼び始めただけで、最初はそんな名前ではなかった。
｢あの街が希望と言うのならば、
この世界はなんて言ったらいいのかしら、ね…｣
精市が名前を出した時、冷や汗が止まらなかった。
彼にそんな有りもしない噂話を広めたのは誰だ、と。
出来ることならば、精市の様な人は
一生知らなくてもいい様な場所なのだから。
どんどん口数の減る私、
遠ざかる距離。
この二つが、彼に｢街｣の話に興味の種を付かせた原因なのはわかっている。
分かっていても、もうどうすることも出来ないのだ。
離れてしまった距離は縮まらない。
｢精市、精市は、何も知らなくていいの。｣
街の事も、約束も。
忘れて欲しいの、あの街の事は。
寝息を立てる彼の頬をなぞって、額に小さくキスを落とした。
彼に私の声なんて届かない。
｢おやすみなさい。｣
｢太陽の街｣を調べると、神隠し。
そのキーワードが出てくるのは、まるで狐につままれるような感覚に遭うからなのよ。
現実なのか、夢なのか、
訳の分からない行ってはいけない場所。
あの街の約束は、ただ一つだけ。
｢何も考えないこと｣考えてしまえば、
街は貴方を拒絶する。
そして2度と、行くことは出来なくなる。
街で過ごした記憶は夢のように
時が経てば消えてしまい、泡となって散る。
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