夢中【短編集】 (ページ4)

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飢えの夢ページ4

“高額バイト” “日雇い” “初心者大歓迎”
…なんとまぁ、怪しげなチラシだろうか。

目に隈のある青年は、壁に貼られているチラシを見て、こう思った。
だが、青年は、チラシから目が離せなかった。

その青年は、鈴木と言った。
一人暮らしをしている大学生だが、親からの仕送りも無く、首が回らない思いをしている。
課題も大量にあると言うのに、夜遅くまでバイトをしなくてはいけない。
お陰で寝不足だ。
そんな中で飛び込んで来た、好条件のバイト。

「少なくとも、やってみる価値はありそうだ」

鈴木は、チラシに書かれた番号に電話をかけた。
その判断が、大きな間違いだとは知らずに。

「住所、ここで合ってるよな…？」
電話の相手に言われた場所。
そこには、小さな白い建物だけで、周りには田んぼしかない。
「ああ、来てくれましたか。鈴木クン、で合ってますよね？」
突然声をかけられ、びくっと体を跳ねさせる。
声のした方向を見れば、青白い肌の、白衣を着た人物。
「バイトで来たんでしょう？ささ、入って頂戴な」
その人物に手を引かれ、建物の中へと連れ込まれる。

扉の閉まる音が、田んぼのカラスを驚かせた。

「ここに寝っ転がってくださいネ」
仕事内容は、ただ目をつぶって台の上に寝っ転がるだけ。
実に簡単な仕事だ。
…だからこそ怪しいのだが。
「…あの、これは何をしているんですか？」
目をつぶっていると、周りの状況が何も分からない。
恐る恐る尋ねると、白衣を着た人物はすぐに口を開いた。
「ゾンビ、っているでしょう？
そいつらに指先から人間を食べさせて、どの段階で命を落とすのかを調べるんですよ」
は、と腑抜けた声を漏らす。
それと同時に、指先に鋭い痛みと、生温くて粘度の高い液体が絡みつく。
思わず目を開けると、そこには…

腐った匂いを放つ、動く死体。
それが、12体ほど居る。
脳味噌が見えているヤツも居れば、目が液状になってとろけているヤツもいる。
そんな吐き気を催す腐乱死体共が、ヨダレを垂らしながら指に齧り付いている。

鈴木の目に涙が溜まってくる。
「嫌だ、死にたくない！どうか助けてくれ！！」
その悲痛な叫びを聞いても、白衣の人物は呆れた表情で言った。
「アナタ、チラシを見た時点で怪しいと思わなかったんですか？思いましたよね？」
それに続けて、
「今更助けろなんて言われても、無理です。もう喰われちゃってんですから」
その声は実に冷たかった。

叫び声と小さな笑いが、建物に響いた。