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28個目の嘘 ページ29

「先ずは、ぼくが見張りの注意を引きます」

「その隙に貴女が先に乗り込んで下さい」




『私が注意を引いた方が、効率が良いんじゃない?』




「貴女は自分の異能を快く思っていないでしょう」

「見張りの注意を引くぐらい、ぼくでも簡単に出来るので大丈夫です」




『…そう、ありがとう』



「…別に、貴女の為ではありませんよ」




そう言ってふいっと顔を逸らし、窓の外を見る少年
紫の瞳は窓の外を真っ白に染める雪を映し、ゆらゆらと揺れる
その瞳に反映されている感情は……不安?





『大丈夫』

『きっと上手くいくよ』





思わず口に出してしまった、軽率で無責任な言葉
上手くいく保証なんて無いし、下手すれば命すら危ないのに

でもきっと上手くいくって、何故かそう思って。

ううん、私がそう思いたいだけなのかもしれない



でも、いまの彼にはその言葉でも十分だったようで、
心做しか見開かれた双眸は優しく細められた






「…貴女という人は…」

「ふふ、そうですね、きっと上手くいきます」






再び窓の外に向けられた瞳には、もう不安は無い
不安の代わりに宿された感情は"決意"


この少年は、強い
どれだけの間独りでいたのか、
私は彼とどれだけ過ごしたのか、覚えていないけれど

私が彼と同じ立場になった時、果たして彼と同じ強さの心を持って、生きれるのだろうか
彼のように機転を利かせることができるのだろうか





『…ね、』



「なんです?」




『私と君は、これからも一緒でいられる?』






こんな広い世界で独りになったら、そう考えたら怖くて、不安になって、
膝を抱えてそう聞いた私のすぐ隣に、くっつくようにして、先程まではなかった暖かさが控えめに寄り添った





「そんなの、言わなくてもわかるでしょう」




『…言ってくれなきゃ、わからないもん』





「…これからも、一緒ですよ」

「なんなら、貴女が嫌と言っても一緒にいてあげます」






顔を上げて彼の顔を見てみれば、頬にはほんのり紅みが差していて
なんだか、嬉しくて、可笑しくって、思わず笑ってしまった

そうすれば不満そうに眉をひそめ、じとっと私を見る少年





「何故笑ってるんです?」



『ふふっ…、ううん、なんでもないの』

『ありがとう』






寒い部屋で、ふたりで毛布にくるまって、話して、笑って、
そんな幼い私の、心の中に隠している淡い感情は膨らんでいく

ゆっくり、ゆっくり、大きく






――――――――。

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ミィ - (´;ω;ノノ゙パチパチ (2021年5月18日 2時) (レス) id: d748bf27c1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ミーヤ | 作成日時:2019年6月20日 22時

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