【#コンパス】いろんなシチュで！【短編集】

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三時になるまで、あと三十分……なんだけど、問題が発生した。

「むにゃ……、──さんの花嫁姿、とっても素敵ですぅ……、すやぁ…………」

　ソーンくんの寝言の内容が気になって、全然本の内容に集中出来ない。

「謙遜なんてしないでくださいよぉ……とってもお似合いですよ、──さん……。僕なんかが釣り合うかなぁ…………」

　どうやら彼は、結婚式を挙げる夢を見ているらしい。……が、肝心の花嫁の名前がうまく聞き取れない。

「えへへ……そうですよね。僕、今日から──さんと家族になるんですよね……。嬉しいなぁ…………」

　目を固く閉じたまま、ふわりと幸せそうに微笑むソーンくん。そんな風にも笑うんだ。そんな幸せそうな声も出せるんだ。っていうか、っていうか……

　…………ソーンくんもそういう夢、見るんだ。

　いや、別にどんな夢を見ようがその人の自由なんだけれど。でも夢に見るってことは、少なからず結婚願望とか、そういうの、あるってことなのかな……？ 相手は、誰なんだろう。夢の中とはいえソーンくんと家族になる不届き者は、一体誰なんだろう。おい夢の中の花嫁、ちょっと私と場所変われ。さもなくばアダムさんにチクるぞ。

「んん……すぅ……」

　…………そもそもなんで私は、顔を見てもいない、何なら実在するかもわからないソーンくんの夢の中の花嫁に嫉妬なんてしてるんだろう。……いや、これは嫉妬じゃない。ソーンくんのことは弟のように思っていたから、ちょっと複雑な気持ちになっただけだ……というのは、さすがに言い訳か。

　好きなんだろうなあ……ソーンくんのこと。自分の気持ちには疎い方だという自覚のある私でも、寝言一つでここまでモヤモヤしてしまっては、そう思わざるを得ない。

「──さん、大好きですよ……」

　ああ、なんでよりによって花嫁の名前だけピンポイントで聞き取れないんだろう。もっとはっきり言ってくれよ。……ごめんやっぱり待って。怖いから。

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