秋雨 ページ10
『はあ、ついて、ないな。』
ざあ、ざあと響く音が、私の、呟きを、どこかに連れ去る。今日に限って、傘を忘れてきた。不覚、だった。
『止むまで、ここで、待つか。』
シャッターの降りた、寂れた人気のないお店の、軒下。一旦雨を凌ぐ、だけのつもりだったけど、もうしばらく、ここで過ごすことになりそう。
「ふぃー、ひっでえ雨。さっみいさっみい、雨宿りできそうな所があって良かった……って、A?お前も雨宿りか?」
『あ、13、うん。傘、持ってきて、なくて。』
「ふーん。……って、零夜は?」
『?……零夜は、いないよ。今日は、私、1人。』
「ほーん……」
13は、私の返事を聞いて、にまっと笑って、私の方を見て、
「現在進行形でリア充のAサマがこんな雨の日に1人で外出ねェ。ふーん……」
と、嫌味たっぷりに、言った。私は、それがなんだか、怖くて、1歩、後ろに下がった。かさり、と今日の戦利品の入った袋が、音を立てる。
「……んだよ、冗談だよ。なにもそんなにビビらなくても……」
「僕の彼女に何をしているんだい?」
「げえ!?」
『あ、零夜。』
後ろから、人の気配。聞き慣れた声の主が、私と、13の間に、割って入る。
「傘、部屋に置きっぱなしだったから、困ってると思って。」
『ありがと。』
「…………で、何をしていたんだい?」
「……別に。偶然雨宿りの場所がかぶっただけだっつの。」
「ふうん……」
『零夜、これは、本当。』
「Aが嫌がってるのにそこの男が無理やり詰め寄ってたように見えたんだけど。」
「う、それはだって、Aが面白いくらい怖がるから、なんか楽しくなっちまって……」
「言い訳は聞きたくない。」
「………ごめんなさい。」
「僕じゃなくて、Aに。」
「………悪かったな、A。」
『ううん、大丈夫、だよ。』
13が、ばつが悪そうに、謝る。その姿に、思わず吹き出しそうになるのを、なんとかおさえてそう言った。
「でも困ったな。まさかA以外に傘を忘れたヒーローがいるなんて思わなかったから、傘を2本しか持ってきていないんだ。」
『それなら、大丈夫。私の傘、13に貸すよ。私達は、2人で1本で、十分。そうでしょ、零夜。』
「それもそうだね。」
「………人前でイチャつくなよ。まあいいや、おじゃま虫はさっさと退散するとしますかね。」
13は、少し早口でそう言って、傘をさして、走っていった。13が、完全に見えなくなってから、私達も、歩き出した。
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パト(プロフ) - かずさん» ありがとうございます!!わ、私が掛け持ち無限ループに入る証拠がどこにあるって言うんだ!!(急に探偵に追い詰められた犯人風)←例えが分かりにくい (2021年3月14日 23時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
かず(プロフ) - 完結おめでとう!そしてまた何か掛け持ちするという無限ループに入ったらもう奥さん困っちゃうわぁ(急に近所のおばさん風) (2021年3月14日 22時) (レス) id: b2c4a9da46 (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - かずさん» 読者様がネタで言ったことを現実にする女!それが私です(*`ω´*)ドヤッ(何もドヤる要素がない) (2021年2月27日 14時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
かず(プロフ) - まさかの2人とも猫耳になったΣ(・□・;) (2021年2月27日 13時) (レス) id: b2c4a9da46 (このIDを非表示/違反報告)
パト(プロフ) - かずさん» ふ、2人とも……だと……。…………あなたはネタのつもりで言っているのかもしれませんが私は結構本気で考え始めております(マジか) (2021年2月24日 0時) (レス) id: 8ed95612e3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:パト | 作成日時:2020年10月4日 13時