娘の鋭い勘 ページ35
「もし俺が抜け出さずに皆を納得させ、正式にウィニアと結婚できていたならば…お前は本当は王子だったんだ。勝手な真似をしなければ…こんな事には…。本当にすまない。」
彼は自分の出生の真実をこの歳になるまで知らなかった。種族を越えし禁断の恋の後に産まれた彼はその存在すら許されなかったという。記憶封じの呪いをかけられ、まだ子供の頃に人間界に落とされた。悲劇の主人公とも言えるエイトだが、彼は自分の境遇を呪った事はない。何故他者の様に両親がいないのか、何故自分には過去の記憶がないのか、疑問は山程あったがそれ以上にミーティア達と過ごすお城の生活が楽しかった。仕事を覚え、世間を知り、愛を育んだ。たった一人と思っていたのに、側には常に祖父がいてくれていた。
これは悲劇の物語などではない。ミーティアやヤンガス達と出会わせてくれた奇跡の物語なのだ。
エイトは両親を誇らしく思う。彼らはエイトに確実なものを教えてくれた。…人を愛する心だ。彼の真っ直ぐで、誰かを…世界の人々を愛する美しい心は間違いなく両親譲りであろう。
「もう謝らないでよ。俺は父さんと母さんに謝らせたいわけじゃないんだ。…聞いてよ、父さん、母さん。頑張ったよ。俺、仲間と一緒に…世界を救って、ミーティアを…大切な人を救ったんだよ…!」
「お前の勇敢な姿はちゃんと見ていたよ。」
「よく頑張ったわね…エイト。貴方は私達の自慢の息子よ。」
ウィニアがそのしなやかな腕で自身の息子を力一杯抱きしめ、そんな二人をエルトリオが優しく抱擁する。ミーティアは長い年月を経てようやく再会できた家族の有様にその瞳を潤ませる。
そして人知れずエイトの瞳から涙が零れ落ちる。苦労の末ようやく念願の両親と出会えたのだから当然の事だ。
「それと…」
ウィニアはエルトリオに手で合図をし、そっと息子を開放すると彼の橙色の冒険服の一点を見つめる。
「そこにいるんでしょ、お父さん。私の目は誤魔化せないわよ?」
「えっ?」
「…」
ウィニアの悪戯っぽい笑顔で呟かれたその言葉にポケットを一瞥したが先程確認した時と同様にトーポの姿は相変わらずない。ポケットは何も入っていない空っぽの状態…のはずなのだが。エイトのかけていた鞄が突然一人でに揺れだした。
「わっ」
なるほどそれではポケットにはいないはずだ。ポケット内に普段見える姿がなかったのでてっきり他の仲間と同様に別れてしまったのかと思っていた。
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作者名:如月フウカ | 作成日時:2018年4月28日 19時