ope.76 ページ29
Aside
「え？未知子また修行行くの？」
晶さんの声が紹介所に響き渡る。
…とは言っても別に晶さんが大声を出した訳では無い。
紹介所が静かなのだ。
今日は城之内先生は家で書類仕事をしているし、私も雀卓にパソコンを広げて作業をしているだけなので音を立てる人物がいない。
そんな中で発された晶さんの声は思ったよりも随分と響いて、それがまた紹介所の静かさを引き立てしまう。
しかしそんな事今はどうでもいい。
大事なのは会話の内容だ。
「大丈夫。どこに行っても私、失敗しないので。」
あぁ、大門先生また遠くに行っちゃうんだ。
大門先生は何時も誰にも何も告げずに武者修行の為に海外に行ってしまう。
それを思えば、今回は事前報告があっただけ全然いい。
でも、そうは言っても少し寂しいな。
もしかしたら、本当にもしかしたらだけど…大門先生の笑顔を見ることが出来るのはこれが最後かもしれない。
もう二度と会えないかもしれない。
そう思うと涙が零れてきそうで、その顔を隠すために私は大門先生に抱きついた。
そして
「絶対無事に帰ってきて。」
と言った。
すると大門先生は
「当たり前じゃない、私を誰だと思ってるのよ(笑)」
って少し笑った後、急に真剣な表情になって
「私、失敗しないので。」
そう言った。
その力強くて安心感がある大門先生の言葉は何年も前に行われた私の癌の手術前を思い出させた。
この人は大丈夫だ。
失敗する事は無いだろう。
私は確信したので大門先生から離れて
「行ってらっしゃい。」
笑顔で見送った。
この後、まさか自分が死の危険に晒されるなんて考えもせずに＿＿＿＿
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作者名：espoir･affettuoso x他1人 | 作成日時：2017年3月16日 17時
