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宇髄の誘いはとても魅力的なもであったが、杏寿郎の下で強くなると決めているし、そして何より色々と助けられた恩も全く返せていないのだとやんわりとお断りすれば、そりゃあ残念だと笑った。
「煉獄ん所が嫌になったら何時でも来な、お前さんなら大歓迎だ!」
「ふふ、追い出された時はお願いしますね」
「任せろ、寧ろ派手に嫁に迎えてやるよ」
「…さて、気付かれてしまう前に私は一足先に戻りますね」
さらりと流したAに、おい!と反応する宇髄にクスリと思わず笑ってしまい、ワザとだと気付かれてしまった。
「宇髄殿、本日はお世話になりました。杏寿郎さんにもよろしくお伝え下さい。ではお先に失礼致します」
宇髄に一礼をしたAは、急いで家路に着くのであった。
Aが去って直ぐに用を済ませた杏寿郎が戻り、キョロキョロと辺りを見渡した。
「ん?天子は何処かに行ったのか?」
「あー、何か用事が有るって先に帰ったぞ。今日は世話になったって伝えくれとさ。…それより煉獄、久しぶりに一杯どうだ?」
そうかとAが去ったであろう方向を見つめる杏寿郎に、クイっと手首を動かす動作をした宇髄に同意し頷けば、二人はその場を後にした。
急いでボロボロになった着物から来た時の着流しに着替え、先程受けた傷の手当てを簡単に済ませて煉獄邸に向かった。
屋敷に着き中に入ればお帰りなさいませと千寿郎が出迎えた。
ただいまと微笑んで見せ彼の頭をポンポンと撫でれば、なんとも愛いらしい照れ笑いを浮かべた千寿郎に心臓がきゅうとした。
「湯浴みの準備は出来ておりますよ、それとも先に御食事になさいますか?」
「…千寿郎、私の嫁にならないか?」
「へっ」
思わず出た言葉に頬を真っ赤に染めた千寿郎を見て、嫁に何て己は宇髄殿かとハッとした。
そして直様冗談だと誤魔化し頬を染め俯いている千寿郎に、先に湯浴みがしたいなと伝えれば元気よく返事をした。
身体に湯を掛ければ細かい傷にジクジクと地味に滲みて、少し顔を顰めたが一度耐えてしまえば特に問題は無かった。
身体を清めて湯船に浸かりふぅと息を吐けば、疲れが一気に飛んだ様に思えた。
暫く湯船を堪能して身体を拭きサラシを巻いていれば、外が何やら騒がしい事に気が付き耳を澄ませた。
「駄目です兄上…!今はAさんが湯浴みをなさっていて…!」
「そうか!ならば背中でも流してやろう!」
「真逆一緒に入るおつもりですか!?」
「男同士、何の問題もあるまい!」
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作者名:カピバラ | 作成日時:2021年2月20日 9時