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男鬼は杏寿郎に顔を寄せ、べろりと頬を一舐めした。
そのまま喰われると思っていた杏寿郎は思わず肩をビクリと跳ねさせ驚いている。
これ以上好きにはさせまいと、渾身の力を込めて拘束を解こうとした。
ギチギチと骨の軋む音と杏寿郎の唸り声が響き渡る。
「往生際が悪いな」
「俺はこんな所で立ち止まっている暇はない!」
うおおと雄叫びを上げ、身体に絡まる血腕を解こうと更に力を入れた。
「無駄だ、そんな事で人間のお前が俺の血腕から逃れられるわけが…」
「うおおおっ!!」
次の瞬間にはパァンと弾ける音がして、杏寿郎をキツく拘束していた血腕が血飛沫を上げて張ち切れた。
真逆そんな事がある訳ない!と後退る男鬼の顔には焦りが見えた。
「おおー!派手派手だなあ!良いぞ、もっとやれ!」
宇髄の楽しそうな声が響き其方を見れば、地面に拘束されていた筈の宇髄が刀を構えて屋根の上に佇んでいるでは無いか。
「な…、何故だっ!!」
「あんなもんで俺を拘束出来ると思ってたのなら、其れは派手に己を高く買い被ってたって訳だ。なぁ、煉獄さんよぉ」
宇髄は男鬼に向けて指を向けちょいちょいと杏寿郎を見る様に指し示し、バッと其方を向いた男鬼は更に驚愕した。
いつの間にか拘束していたAさえも杏寿郎に助けられていたからだ。
男鬼は突然雄叫びを上げ、頭を掻きむしり出した。
「天子、大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
抱えたAを屋根に降ろしつつそう問い掛け、頷くのを確認した杏寿郎は、よし!と気合いを入れ男鬼の方に向き刀を構えた。
「俺はお前達柱を倒して!あの方に気に入られるんだぁあっ!!!」
「宇髄、天子!一気に畳み掛けるぞ!」
ついに発狂し始めた男鬼に向かってA達は飛び込んだ。
「よし、これで終わったな」
「うむ!鬼の気配も感じない、問題無いだろう!」
「御二方、この度は足を引っ張ってしまって申し訳ございません。私がもっとしっかりしていれば…」
隠の方達に後片付けを任せつつ、Aは深く頭を下げた。
そんなAの頭をポンポンと撫で、お前は良くやった、あの技ド派手で良かったぜ?と笑う宇髄に、杏寿郎は確かに良かったな!と頷いた。
すると隠に呼ばれ杏寿郎は其方に向かって行った。
「真逆お前が音の呼吸を使えるなんて思いもしなかったぜ」
「見様見真似で威力も全く有りませんでしたが…」
杏寿郎に聞こえない様にこっそり話す宇髄は、本当に俺の継子に成らねぇか?と此方を見た。
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作者名:カピバラ | 作成日時:2021年2月20日 9時