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杏寿郎に抱き締められながら、此れは任務だと己に言い聞かせドキドキと速まる心臓の音が杏寿郎に聴こえてしまうのではと不安になった。
そんな事もお構いなしな杏寿郎に天子さんと名前を呼ばれて見上げれば、まるで愛おしい者を見る様な顔で此方に微笑んでいた。
「目を閉じなさい」
「え?」
突然目を閉じろと言われたかと思えばスルリと頬を撫でられ、段々と杏寿郎の顔が近いて来るではないか。
整った顔が近づくにつれて耐えきれず、ぎゅっと目を閉じた。
次の瞬間、辺りに凄まじい強烈な悪臭と鬼の気配が一気に広がったと思えば、Aを抱き締めていた杏寿郎は一気に腰に下げていた刀を抜いた。
Aの背後からけたたましい叫び声と、目の前の杏寿郎の背後からは宇髄が刀を振り翳しており爆音と叫び声が聞こえた。
「おいおいこんなの聞いてねぇなぁ?どうなってんだ?」
「私だって知らないわ、真逆柱が2人も居るなんてねぇ」
そこに居たのは男女の鬼で、杏寿郎と宇髄に斬られた部分がもう塞がり掛けていた。
着物を託し上げ、隠していた刀を構えれば女の鬼がいち早く反応した。
「あら、貴女も鬼殺隊だったのね。はぁ…益々気に入ったわ、早く食べちゃいたい…かぁわいいわぁ」
血色の悪い頬を紅らめうっとりとした表情で舌舐めずりをしてAを見据えた女鬼の視線から、サッとAを隠す様に前へ出た杏寿郎に女鬼が血相を変えて激怒した。
「ちょっと!其処の筋肉団子退きなさい!むさ苦しい男なんて見たく無いのよ!」
「そう癇癪を起こすな、男前の柱二人は俺が直ぐに美味しく頂いてやっからよぉ」
落ち着かせる様に女鬼の頬を撫でれば、杏寿郎と宇髄に視線を向けて、最高に男前だなぁ…鳴かせ甲斐がありそうだ、とニヤリと笑った。
「男たる者、俺は決して泣きべそはかかない!」
杏寿郎はキリリとした態度で答えれば、男鬼はポカンとした。
「生憎、鬼にやる尻は俺も此奴も持ち合わせて無ぇよ。なぁ、煉獄」
「うむ!尻もやらん!しかし何故尻なんだ!」
宇髄の発言に勢い良く同意するも、何故尻の話になるのか理解が出来ていない杏寿郎を無視し、男鬼と宇髄は言い合いをし始めた。
「あんな男共はほっといて楽しいコトをしましょ?」
女鬼は一瞬にしてAの背後に周り、スルリと女鬼の腕が身体の至る所を這う。
一瞬の出来事に驚いていれば、身体を這う腕が鋭い棘だらけの蔦に変化しキツくAを締め付ければ、着物越しでもその棘が肌に食い込んだ。
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作者名:カピバラ | 作成日時:2021年2月20日 9時