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支度を終え二人の待つ縁側へ向かうと、ちょこんと隣り合わせで座っている背丈は違えど瓜二つの後ろ姿が目に入り、思わず頬が緩んだ。
暫く仲睦まじくしている二人を微笑ましく見詰めていれば、視線に気付いた杏寿郎が此方に振り向き、どうかしたのか?と声を掛けてきた。
何でも無いのでお気になさらずと微笑んで、杏寿郎に手拭きを渡した。
「今日の茶菓子は芋羊羹ですよ」
「芋羊羹か!そいつは良いな!」
使い終わった手拭きを受け取り、熱いのでお気を付け下さいねと茶と茶菓子を差し出せば、杏寿郎はありがとうと感謝を述べて手を伸ばした。
うまい!わっしょい!と芋羊羹を食べる杏寿郎を眺めながらふと思う。
何処に行って来たのだろうか、誰かと会って来たのだろうか、…まさか好意を寄せている方が出来て会いに…?
そんな事が過ったが、あの杏寿郎さんが約束を変更してまで向かったのだから鬼殺の仕事で何かがあったのだろう、そう心に言い聞かせた。
「…さん、Aさん?」
クイッと着物の裾を引かれてハッとして其方を見てみれば、千寿郎が心配そうに此方を見詰めていた。
少し考え事をしていて気が付かなかったと伝えれば、俺に何か出来ることは有りますか?と言われてしまった。
杏寿郎も気付いていたらしく、じっと此方を見詰めていた様だ。
またしても心配をかけてしまった事に、シャキッとしなければと気を引き締めた。
「今夜の夕餉は何が良いかと考えていました。何が良いでしょうか?」
にこりと笑いそう伝えれば、Aの作る物なら何でも美味いと杏寿郎が千寿郎に同意を求めれば、千寿郎もまたその通りだと頷きながら大きく返事をした。
「ふふ、それならば久しぶりにサツマイモを使った料理に致しましょう」
其れを聞いた杏寿郎は大きな瞳を更に見開き、それは名案だ!と嬉しそうに頷いた。
杏寿郎の周りにホワホワしたモノが見えるのはきっと気の所為だろう。
その顔を見た瞬間に胸がギュンと鷲掴みされた感覚に陥った。
「其れでしたら俺は里芋の煮物をお作り致します!」
「俺も人肌脱ごう!」
真逆の兄弟の申し出に、この兄弟はーっ!と奥歯を噛み締めた。
その後A達は食材を調達に三人で街へ出向いた。
「私も荷物を持ちますよ?」
「これしきの物など持った内に入らない、気にするな!」
「…千寿郎も、重たいでしょ?」
「俺も男です、此れぐらいへっちゃらです!」
一切荷物を持たせてくれない二人を引き連れて渋々帰宅するのであった。
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作者名:カピバラ | 作成日時:2021年2月20日 9時