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ぎゅうと強く抱き締めている杏寿郎の体温と匂い、そしてドキドキと早い鼓動が伝わって来る。
「男である君に言うのは迷惑な話だろうし、困惑させてしまって申し訳ないと思っている」
「杏寿郎さん…」
「だが俺は自分の気持ちに嘘を吐こうとは思わない！」
身体を離され目が合えば、ニコリと微笑んだ杏寿郎にスルリと頬を撫でられた。
「俺はどうしようもなく君が愛おしいんだ…例え君が俺に好意を抱いて無くとも、この事だけは伝えておきたかった、これは俺の我儘だ」
「っ、杏寿郎さん…、私は」
「はは！俺は我儘で自分勝手だな！さぁ、この話はこれでお終いだ！」
杏寿郎はAの話を遮る様に話を終わらせ、何事も無かったかの様に家に帰るぞと歩き出した。
お互い一言も発しない帰り道はとても気不味くて、しかし目の前を歩く杏寿郎は何処かスッキリとした様な顔をしていた。
その日はその後も困惑をしたまま床に就いたが、案の定色々考えてしまい全く眠る事が出来なかった。
そして次の日、杏寿郎と顔を合わせるのが気不味くなるだろうと思っていたのだが、全くもってそんな事は無く、いつも通り接してくるではないか。
それだけならまだしも、驚く事に何処へ行くにも何をするにも必ず近くに杏寿郎は居て、特に何かをする事も、何かを言う事も無く文字通り只々近くに居るだけなのだ。
今は千寿郎も含めた三人で食事をしているのだが、食事の最中は流石に近くには居ないが、向いに座っている杏寿郎からジィッと熱い視線を感じる。
千寿郎も其れに気が付いていて、不思議そうにAと杏寿郎をチラチラと見ている。
Aは余りにも見て来るものだから、何か言いたい事でも有るのだろうかと話しかけてみる事にした。
「あの、杏寿郎さん？」
「ん？何だ！」
「私に何か言いたい事でもお有りですか？ずっと見ていらっしゃるので気になって…」
「特に無いが…強いて言うなら、君は今日も愛いな！」
杏寿郎の真逆の発言にAと千寿郎は目を見開いた。
驚く二人を他所に、杏寿郎はうまいうまい！といつも通りに食事を再開していた。
Aは昨日の事を思い出し、カッと頬が熱くなるのを感じ其れを隠す為に下を向いた。
そんなAを杏寿郎は愛おしそうに見つめていた。
その後は任務が有る為準備をしていれば、突然杏寿郎が部屋に来て俺も着いて行くと言い出した時には流石に頭を抱えたが、何処からか飛んで来た杏寿郎の鎹鴉の要から任務依頼が届きその場は収まった。
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作者名：カピバラ | 作成日時：2021年2月20日 9時
