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目の前を歩く杏寿郎の後を歩きながらAは先程の事を思い出していた。
あの時、女性を逃した後男達に拘束をされてしまい駆け付けた二人に助けられた訳だが、正直に言うと自分一人でも何とか出来た。
鬼ならまだしも彼等は人間で、宇髄殿の言った通り其処らの男より強くなった自覚はあったし、そして何より階級も上がっていて鬼殺隊の上位である甲にまでたどり着いていた。
その事については杏寿郎を始め槇寿郎と千寿郎、そして良くして頂いている宇髄にも伝えてあるにもかかわらずだ。
信用されていない？
確かに柱に比べればまだまだ弱いが、信用出来ない程弱いとは思って居なかった為、そういう事では無いのだとしても心の中にモヤモヤとした何かが渦巻く。
ドンッ
「ぅあっ！？…あ、申し訳御座いません、考え事をしていて…」
深く考え込んでいて、立ち止まった杏寿郎に気付かずに彼の背中にぶつかってしまった。
しかし何も反応しない杏寿郎に小首を傾げていれば、突然振り向いたかと思えば手首を掴まれ、早足で何処かに引っ張られた。
「杏寿郎さん？どうかなさいましたか？」
「…」
無言で前を見て歩く杏寿郎の顔色は窺えず、ただいつもの暖かい彼の雰囲気とは違う何かが彼を覆っている事は分かった。
話しかける度に手首を握る手に力が入って痛みを伴い、思わず小さく声を上げれば少し緩んだ様な気がした。
ぐいぐいと進んだ先は人気が無い入り組んだ裏路地で、握られたままの手首を引っ張られたかと思えば、壁に押さえ付けられてしまった。
いつの間にかもう一方の手首も壁に押さえ付けられていてピクリとも動かせず、目の前には無言の杏寿郎が居て、Aは何が起こっているのかも分からず、此方をジッと見詰めるいつもと違う杏寿郎の視線に思わず身震いをした。
この人は誰だ？
今まで見た事のない彼の視線に恐怖を抱いてしまった。
その眼はまるで狩をする獣のそれで、一瞬にして逃げられないと悟った。
「A」
やっと聞けた声は何処か熱を帯びており、ゆっくりと顔が近づいて来て再び耳元で名前を呼ばれたかと思えば耳朶に痛みが走った。
「痛っ！？き、杏寿郎さ…ひあッ！？」
噛まれたと理解した瞬間ぬるりとした熱い何かが耳の縁を這い、身体がビクリと跳ねた。
高い粘液の音と杏寿郎の熱い吐息が直で伝わり身体が一気に熱を帯びる。
「嫌なら抵抗しなさい」
杏寿郎の低く色のある声が聞こえ、ハッとしたAは必死に抜け出そうと抵抗した。
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作者名：カピバラ | 作成日時：2021年2月20日 9時
