62 ページ12
何故こんな事になっているのか、Aは訳がわからないと困惑した。
「杏寿郎さん?あの、退いて下さいませんか?」
話かけてもジッと見つめてくる杏寿郎に、どうしたら良いのか分からず降参だと言わんばかりの弱々しい声で杏寿郎の名前を呼べば、スルリと頬を撫でられ杏寿郎の顔がゆっくりと近付いてきた。
何故?これは不味いのでは?ゆっくり近付く顔になす術も無くぎゅうと眼を瞑ったその時。
ドンという音と共にゴロンと杏寿郎が横に転がったと思えば、杏寿郎からAを守る様に千寿郎が抱き寄せたのだ。
「兄上!少し落ち着いて下さい!…Aさん、大丈夫ですか?」
「う、うん、大丈夫だよ。ありがとう」
一回り小さな身体に抱き寄せられ、千寿郎の腕の中でそう返事をした。
突然の出来事で、真逆千寿郎に抱き寄せられるなんて思いもしなかったし、初めて出会ったあの日より遥かに逞しく育っていた事にも驚きだ。
今思う事では無いのかもしれないが子供の成長は早いなと感心していれば、転がっていた杏寿郎が飛び起きた。
「すまない!俺はどうかしていたみたいだ!申し訳ない!」
ゴッと額を畳に押し当てて必死に謝りだした。
Aは驚き、慌てて頭を上げる様に伝えたが頑なに謝り続け、終いには腹を切るとまで言い出したので流石に無理矢理にでも顔を上げさせた。
「私が闇雲に触れてしまったのが原因だったのでしょう?ですから悪いのは私です。杏寿郎さん、申し訳ありませんでした…」
抱き締めている千寿郎に、もう大丈夫だとポンポンと頭を撫で離してもらい、先程の杏寿郎よろしく同じ様に頭を深く下げて謝罪をした。
しかしAは何も悪くない!と否定をしてくる杏寿郎に、いやいや私がと最早堂々巡りになってしまっている。
「ふふ、これでは埒が開かないですね。杏寿郎さん、おあいこにしませんか?」
クスリと笑ったAを見てキョトンとした杏寿郎だが、何処か腑に落ちない顔をしていて口籠もっている。
「私も悪かったし杏寿郎さんも悪かった。でもお互い謝罪も済みました、はい、この話はこれで終いです」
パンと手を打ち強制的に終わらせれば、千寿郎が困っていますよ、これ以上可愛い弟を困らせたいのですか御兄様?と耳元で囁いた。
「っ、君って奴は…!そうだな、終いにしよう!千寿郎もすまなかった!兄として不甲斐なし!」
何時もの杏寿郎に戻ったのを見てホッとし、千寿郎に先程は有難う、逞しくなったねと伝えよしよしと頭を撫でた。
.
89人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:カピバラ | 作成日時:2021年2月20日 9時