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解けた包帯から現れたものは色白のきめ細やかな肌と筋肉とは違う柔らかそうな膨らみで、千寿郎は思わぬ事態に己の掌に残る柔らかな感触と、目の前に広がる光景を凝視した。
男と思っていた人の身体には、男には付いていないモノが付いていて暫く理解が出来なかったが、もう一度チラリと確認した瞬間、一瞬にして己の犯した失態が頭の中を駆け巡った。
千寿郎は顔を真っ青にしたと思えば、手に残る感触を思い出して真っ赤に染め上げた。
只ひたすらに恥ずかしさと申し訳なさに顔を手で覆い隠した千寿郎は、杏寿郎が部屋に入ってくるまで混乱状態が続いていたのであった。
数日後、千寿郎と杏寿郎の手厚い看病のお陰で無事に復活する事が出来たのだが、あの日を境に千寿郎のAに対する態度があからさまに変わった。
と言うのも、買い出し時の荷物持ちは半々か若しくはAが重い方を持っていたのだが、千寿郎は俺が持ちます!と荷物をAに持たせまいと頑なになった。
そしてもう一つ悲しい事が増えた。
それは千寿郎からの抱擁が無くなった事だ。
けれどチラチラと此方の様子を伺ってくるので腕を広げてやれば素直にぎゅうと抱きついて来てはくれるのでまだ良方だ。
遂に千寿郎にも遂に思春期が来たのだと、母親の気持ちが少し分かった気がした。
「なるほど!もしかしたら千寿郎は君の事を母親の様に見ているのかもしれないな!」
偶然任務終わりの帰り道が一緒になった杏寿郎にその話をすればそんな事を言われた。
「母親…ですか?」
「そうだ、男であるAに対してそういった感情が有る事を申し訳なく思っているのやもしれないな!」
確かに千寿郎は幼い頃に母親を亡くしていて母親からの愛情を恋しく思っているのだろうと感じる事は多々あったし、あの日を境に増えたとも感じていた。
「千寿郎もAを慕っている!兄である俺が君に頼むのは可笑しな話かもしれないが、俺の代わりに千寿郎に母上の様な愛情を与えてやってはくれないだろうか!」
真っ直ぐ此方を見つめてくる杏寿郎に、勿論だと頷けば嬉しそうに微笑んだ。
「杏寿郎さんの愛情に比べれば劣りはしますが、私自身も千寿郎を家族として愛しています。負けませんよ?」
「はっはっは!それは何よりだ!俺も負けてはいられないな!」
お互い笑い合いながら帰宅した。
煉獄邸に着けば元気よく出迎えてくれる千寿郎に杏寿郎と目配せをすれば、これでもかと二人掛で千寿郎をぎゅうと抱き締めた。
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作者名:カピバラ | 作成日時:2021年2月20日 9時