18・七瀬 ページ19
「ごめん、今緊張してるから電話切るね」
それだけ震えた声で伝えて、アケミの返事も待たずに彼女は通話を切った。
部屋には私ひとり、いつもと同じ、見慣れた光景。
それなのに、それなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろうか。
胸の奥から、何か湧き出てくるものがある。
息すらままならない。
こんなのはおかしくて、怖いけれど嬉しい。
もしこれがアケミによるドッキリだったなんてことがあろうものなら、余裕で街ひとつは潰せると思う。
それくらい彼女は今、パワーが満ち溢れている。
「良かったね〜!」
「大丈夫そwww?」
ピコン、ピコンと連続で鳴り響く通知音に心臓の鼓動を早めながらも、彼女はアケミからの祝いの言葉を噛み締めた。
この世の全てのものが輝いていて、尊くて、素晴らしいものに思える。
そんな日が来るなんて、考えもしなかったことだ。
「ねえ、アケミがAが俺のこと好きって言ってたって言ってたんだけどホント?」
「いや俺が自意識過剰なんじゃなくてアケミが言ってたから」
いいところのお坊ちゃんである彼が彼らしくない幼稚な文章を彼女のところに送り付けた。
かなり焦っているようで、ダブリューも草も痛いオタク用語も入っていない文章だ。
「うん」
「騒がせてごめんね」
「それでさ…返事って、」
少しずつ区切って文章を送る彼女の指には塩水が滴っていた。
「アケミ曰く両思いらしいんだけど…」
「アケミのイタズラじゃないよね?」
この期に及んでアケミがそんなことをするとは到底考えられなかったが、彼から直接言われてみたいという欲求が無きにしも非ずだった彼女は、回りくどくそういった。
「うん」
「なんかめっちゃ恥ずいんだけどw」
取ってつけたような彼のナナオ語録に、胸がきゅぅぅ、と締め付けられる感触を彼女は知った。
「じゃ、じゃあ…」
「私と付き合って…くれますか?」
本当は彼から言って欲しかったな…なんてワガママを考えてしまうこともあったが、結果オーライであって、彼の返事は案の定肯定だった。
「はい」
「こちらこそよろしくお願いします」
なれないような敬語で、彼はそう返した。
以前自身のYouTubeで、敬語を使うのは大の苦手だと言っていたこともあったが、こういうところで根が真面目だとか、育ちがいいことがわかる。
人とコミュニケーションを図るのが苦手なふたりだけど、
何も無いふたりだけど…
これからは、幸せに暮らしていくのであった。
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なす - 好意のない人から押し付けられる更衣になってますよ〜 (2022年4月25日 1時) (レス) @page4 id: 6740f04f29 (このIDを非表示/違反報告)
うきび - 天才☆ (2022年4月24日 1時) (レス) @page4 id: 654256a91c (このIDを非表示/違反報告)
崇 - いろはさん» コメントありがとうございます!ナナオさんに読まれたら悶えますねwwとんでもなく恥ずかしいですw (2022年4月3日 0時) (レス) id: 8a6bf88ba9 (このIDを非表示/違反報告)
崇 - 名無し90169号さん» コメントありがとうございます!ナナオさん同士で紛らわしくも面白くなっちゃいますねw (2022年4月2日 23時) (レス) id: 8a6bf88ba9 (このIDを非表示/違反報告)
崇 - しらす星人さん» ゴリラといい雰囲気になるナナオさん、ゴリラに惚れ込むナナオさん、ゴリラに告白するナナオさん、どれをとってもカオスですねwww (2022年4月2日 23時) (レス) id: 8a6bf88ba9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:崇・ナナセストの権化 | 作成日時:2021年6月29日 22時