探偵達はカフェにいる【オリジナル】 (ページ13)

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ムジカはビターチョコがお好きページ13

　カフェ『レッツェル』は文字通りカフェなので、飲み物以外に食べ物も提供している。あまり繁盛していない店だから、料理をするのは勿論私だ。まあつまり、バイトを雇う余裕もないって事なんだけれど……泣いてなんかいないからね。

　閑古鳥が鳴く店の中に、カランカランとベルの音が響く。お客さんだ、誰が来たんだろう……あ、あの自己主張の激しい跳ねっかえった黄色い髪は……ムジカさんか！

「やあAさん、また来たよ」
「いらっしゃいませムジカさん、今日はどうしますか？」
「そうだなあ……ブラックティーとビターチョコで」

　あれま珍しい、普段はお茶だけ楽しむ人なのにチョコも頼むなんて。もしかしたら今日は少し長くいるつもりなのかもしれない。いつも忙しい人だから、お店でゆっくりとしている事なんて片手で数えるくらいしかなかったはず……よし、良い時間を過ごしてもらわなければ。

「かしこまりました、少々お待ちください」
「了解」

　パチンとウインクする姿が妙に様になっている。やれやれモテ男というのは罪だよねえ。さあ、ご注文の品でも準備しましょうかね。

　ブラックティーの淹れ方は三話でやったのとほぼ同じ。そういえば、カフェのマスターになる為の勉強をする前はティーカップにもお湯を淹れて温めなくちゃいけないなんて知らなかったなあ。それに、茶葉の量はティースプーンで人数分＋一杯にするのが美味しく淹れるコツだと知った時も驚いたなあ。
　前にムジカさんに聞いてみたら「知ってるぜ、ポットの為の一杯だろ？」なんて得意顔で言われた。か～っ、つぐづく嫌味な男！そんなの常識じゃないですか？みたいな感じで言うのがまた腹が立つ。

　よし、紅茶も淹れ終わった事だし……今の内に次回用のチョコでも作っておこうかな。

「お待たせしました、ブラックティーとビターチョコです」
「ありがとう……あれ、Aさん。その道具は？」
「ああ、これはテンパリング用の道具ですよ。今からチョコを作るので」
「えッこれ自分で作ってんの！？」

　ムジカさんの驚いた顔、初めて見たかもしれない。こう見えても凝り性だから色んな技術を開店前に学んできているんだけれど、周りから変な目で見られがちだ、悲しい。

「テンパリングすると口当たりが滑らかになっていいんですよ」
「超こだわりますね」
「次はカカオの栽培からする予定です！」
「どこ目指してんだアンタ！？」
「そりゃ勿論渋いマスターですよ」

　かけ離れているよ、とムジカさんに言われてしまったのはここだけの話。