1話 ページ5
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上半身を裸にされ、後ろ手で縛られた男が忠誠を誓うように跪いている。
見れば、その頬には緊張からか冷や汗が伝っており、瞳は恐怖に震えていた。一般的に見ても屈強な大男だが、彼の前で社長椅子に座って頬杖をついている人物は彼より華奢だ。
彼から全ての言質を取ったその人物からは、威圧感のある白いドミノマスクを着けているせいで表情を読み取れない。
「──どうだ、蓮水」
「間違いないぜ」
ビクリ、と男の肩が震える。彼から見て斜め前、即ち目の前の人物の隣でノートパソコンを弄っていた女が口元に三日月を浮かべた。
「構成員、組員の数、頭や幹部の名前と特徴、それに組織の拠点まで、事前にあたしが調べてた通りだ」
「いいんじゃないか、信用してやっても」
逆隣の椅子が動いた。背中を向け、窓の外を見ていた女だ。長く艶やかな青髪が揺れ、くるりと男のほうを向く。
「壊俐崇會を完全に裏切って、うちに来たってさ。なあ、凛？」
「……そうか」
例の人物が片手で静かにドミノマスクを外すと、その双眸があらわになる。
薄暗い本部、社長室の中、その紅の両目は爛々と光り、狼を思わせた。
「いいだろう。ようこそ、メイビス・ファミリーへ」
「！」
「歓迎するよ。手荒な真似して悪かったね」
椅子に座っていた青髪、もとい東雲春香はいつの間にか男の背後に回っており、縄を解いてやった。
先程までの彼女から発せられていた威圧感は消え、表情には常人のような笑顔が浮かぶ。
「他ならぬ元・壊俐崇會のメンバーだからさ、厳重に尋問しなくちゃいけなくて」
「いえ、構わねえっす。むしろこれくらいで信じて貰えるなんて」
「いやあ、うちはアットホームが理念だからさ」
優しげに聞こえていた。後に「裏切りも指詰めか腎臓抜きで許してあげるよ」という言葉が付け足されなければ。
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