左遷准将、帰還する (ページ14)

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寝不足になると… ページ14

良い天気だ。
日は暑過ぎず、風は爽やか。
空には所々に白い綿雲が浮かび、
カモメが気持ち良さそうに青空を仰いでいる。

そんな平和な日の昼下がり、海軍本部にて、

––––ダダダダダダダダダッ！！

廊下に響く品の欠けらも無い足音。

「聞いておくれよ、僕の同期にして5歳年上で未だに曹長止まりの平々凡々な海兵であるモヴ君！」

目の下に隈を作り、酷い顔色のイツキが話しかけたのは正しく制服を着こなした至って真面目な海兵モヴ。

「何だ、訓練時代に焼き芋やろうって言って火の用意頼んだら赤犬さん連れて来てマグマ焼き芋やって全員の度肝を抜いたイツキ准将」

「聞いてよ！
帰ってきて3日間不眠不休で青雉さんの書類手伝って、その後で海賊討伐5件も行って、道中ずっと報告書書き続けて、昨日までの7日間でたったの2時間しか寝てないんだ！！」

「そうか、でも今日明日は非番だろ？
さっさと寝ろよ……」

「寝たいよ！寝たいんだけど、
疲れ過ぎて目が閉じない、寝れない！！」

「そりゃ大変だな」

「そう、大変なんだよ！どうしよう！？」

やや面倒くさそうに対応するモヴだが、
イツキのテンションはいつになく高い。

モヴは少し考えてから「あ！」と閃く。

「だったら赤犬さんの所にでも行ってこい」

「赤犬さん？」

「昔はよく、殴りに行って返り討ちにあって気絶してただろ。気絶すれば寝れる」

「成る程！ありがとう！！」

軽い冗談のつもりだったのだが、
既にイツキは廊下の彼方へと消え失せている。

そして数分後、

––––ドカァンッ！！

という音がグラウンドから聞こえて来る。

モヴが本部の上の方の階の廊下から下を見れば、
イツキと大将赤犬がやりあっている姿が目に入る。

大将の方はマグマの能力を使っているし、
イツキの方もナイフに覇気も纏わせて全力でやっている。

周囲には元々グラウンドで訓練をしていたのであろう新兵たちがいるが、2人の凄まじい攻防に関心するどころか目が点になっている。

「あのアホ本当にやったのか……」

時折赤犬さんの拳を喰らっておきながら笑って
「まだまだ！」と掛かっていくから、
それはもう狂気の沙汰だ。

「普段は部下想いで良い奴なんだが、
極度の寝不足になると馬鹿になるからなぁ……」

その後モヴはマグマで所々焦げたグラウンドで気絶しているボロボロのイツキを回収し、
近くに置いてあった紅葉饅頭と一緒に部下の女子に頼んで宿舎の部屋に放り込んでもらった。

そのままイツキは42時間ほど寝続けた。