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しかし、一方の逃げ出した本人は全く気にした様子もなく、「拾って下さり、ありがとうございました」と笑顔で頭を下げた。これには驚いた。あの接触から一変、愛想を振りまく彼女の姿に、安堵どころか恐怖を感じたぐらいだ。
 しかも、その日を境に今度は茜屋さんの方から話し掛けてくる始末。何の心境の変化だろうか。乙女心は秋の空とは言うが、彼女のそれは台風が去った後の天気である。それに今は秋じゃ無い。
 それぐらい彼女の態度が変わったとも言える。

「ゼロ先輩は未曾有の危機に陥った事はありますか?」

 明後日の方向に幅跳びしていた思考が呼び戻された。
 隣に視線を移せば、相変わらず笑顔の茜屋さんの姿が目に入る。手には先程未曾有の読みと意味を教えていたページのまま、彼女の手で固定されていた。

「未曾有の危機? ……さぁ、分からないな」
「そうですか」

 イマイチ質問の趣旨が変わらなかったので、曖昧な回答しか出来なかった。……まぁ、無い訳ではなかったが、茜屋さんに言う程の事でも無いだろう。現に彼女は淡白な返答しかしなかったのだから、目的はそこでは無いのだろう。
 回答を聞いた茜屋さんは満足そうな表情で、器用に本を読みながら話を再開させる。

「私はありますよ」
「え、それ大丈夫だったの?」
「身体的外傷が無ければ問題ないですよ」
「……心的外傷はあったんだね」
「いえいえ、それ程重たい物ではありません。今は立ち直りましたし」

 なんだそれ、と呟いて、会話が止まる。
 それ以降、等間隔に紙が擦れる音が鳴るだけで、俺から声を発する事も、茜屋さんから声を掛ける事も無かった。と言うよりも、話題の種が見つからなかったのだ。本来、その未曾有の危機について深掘りして行くべきだったのだろうが、気分的に聞く気にもなれなかった──否、聞かなくとも、その内彼女から話し出すからだ。

「あの時は本当に衝撃的だったんです。雷に打たれた気分でした」
「打たれた事無いのに?」
「比喩ですよ。もし本当に打たれていたら、私は今此処にはいません」
「だろうね」
「もう、先輩。私と話する気あるんですか?」

 あるよと笑いながら返事をするが、彼女は少し機嫌を損ねてしまったのか、それ以降本に向き合ったきり話してくれなくなった。

 ……何となく癪だったと言える。その青天の霹靂は、きっと彼女の言うあの人に違いないと思ったから。
 それでも彼女との会話は、不思議と苦にはならなかった。

◆Episode II:デザートは桃ゼリー→←◆Episode I:プリムラには近くて遠い



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十二月三十一日(プロフ) - すふ丸【低浮上】さん» ご閲覧有難う御座います。そう言って頂けると光栄です。とても励みになります。内容が内容なだけにスローペースでの更新となりますが、今後とも応援宜しくお願いします。 (2018年6月8日 22時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
すふ丸【低浮上】(プロフ) - 突然のコメント失礼します。試験勉強の合間に読み返したくなるくらいお話が好きです(^o^)撫子さんとゼロさんの今後が凄く気になります!更新楽しみにしております、頑張って下さい! (2018年6月8日 21時) (レス) id: 5ecb48edcc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年5月8日 23時

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