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年齢も学年も違うのだから、こうなるのは当然の事だ。でも、それは少し惜しいな……。
茫然と上座の人がワラワラと忙しなく動くのを見ていると、突如肩に衝撃が走る。大して痛くはない。しかし、状態を崩すには十分な強さだった。
くらりと傾いた身体は近くにいたマリアさんとぶつかったが、彼の身体は微動だにせず俺の身体を受け止める。マリアさんは元より身体が大きくガッチリとしているので、俺が軽く衝突したぐらいではビクともしないのだろう。
前方を見ると、黒いスーツを着た男が一人、空になったグラスを片手に俺を見ていた。不愉快そうに眉を顰め、口はへの字。空のグラスを見て分かる通りアルコールを摂取した後らしく、頰はかなり赤らんでいる。相当飲んだ後なのか、吐かれる息にはアルコールの匂いが混じり、此方を見る目は据わっていた。
「え、あ……ごめんなさい、大丈夫で──」
「ボーッと突っ立ってんじゃねぇぞ、クソガキが」
大丈夫ですか? と問おうとした瞬間、男から飛び出した第一声は罵声だった。ドスの効いた声に動きがピシリと止まる。据わった目からは刃の様に鋭い眼光を放っており、真っ直ぐと俺を射抜く。
痛い。言葉が、視線が、男から微かに立ち込める殺気が、俺を突き刺してきて痛い。勿論、感覚的な事なので実際に突き刺されている訳では無いが、その異常な鋭さは本当にナイフで心臓をドッと一突きされた様な感触が俄かに信じられないが確かにあった。
無意識の内に胸に手を置く。当たり前だが、生温い液体の感触も、皮膚や衣服とは似ても似つかない金属の感触も無い──
「愚弟が御迷惑をお掛けして申し訳御座いません。お怪我はありませんか?」
俺達の間に流れる不穏な空気を割って入るかの様に兄さんは俺の肩に手を置くと、和かな表情で男を見た。
男は突然介入してきた兄さんにたぢろぐと、「何でもねぇよ」と一言吐き捨て、フラフラとした足取りで食事が置かれたテーブルの方へと向かっていった。途中、嗄れた声でボーイを呼んでいたので、きっと飲み直すのつもりなのだろう。あれだけ酒を飲んでおいて、まだ飲むのか。
「ゼロ、大丈夫か?」
「全然。殺されるかと思った……」
冗談じゃない、紛れも無い本心だった。その証拠に胸に置いていた手は真っ白で、それはもう氷の様に冷え切っている。ピリピリと痺れた様な感覚。関節もガクガクと震えて力が上手く入らない。血の気が引くとはこういう事を言うのかもしれない。
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十二月三十一日(プロフ) - すふ丸【低浮上】さん» ご閲覧有難う御座います。そう言って頂けると光栄です。とても励みになります。内容が内容なだけにスローペースでの更新となりますが、今後とも応援宜しくお願いします。 (2018年6月8日 22時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
すふ丸【低浮上】(プロフ) - 突然のコメント失礼します。試験勉強の合間に読み返したくなるくらいお話が好きです(^o^)撫子さんとゼロさんの今後が凄く気になります!更新楽しみにしております、頑張って下さい! (2018年6月8日 21時) (レス) id: 5ecb48edcc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年5月8日 23時