◆Episode VII:ロベリアと独善的ワルツ ページ37
5月5日、午後7時。
少しずつ日が沈むのが遅くなりつつある初夏のこの日。俺は大天使のグラナート・ヤヌアールの邸宅にいる。
グレーのタキシードに身を包み、髪もしっかりセットして赴いたこの場所は、青い屋根が特徴的で白塗りの壁が眩しい洋風建築の豪邸だった。資産の限りを尽くした最高傑作とでも言うべきか、それぐらいこの三階建ての巨大な建築物は芸術的で、世界的遺産に登録されても可笑しくなかった。
首が痛めるぐらいの大きな建物を前に陰鬱な溜息を漏らすと、隣に佇む色違いのタキシードを着た兄・ウノが「嫌そうだね」と口元を隠しながらクスクスと笑う。
「気持ちは分からなくもない。しかしだ、ゼロ。今日ぐらい、それを外せば良いじゃないか」
「駄目。これは絶対外さない」
キチンと正装している俺だが、唯一顔の覆面だけは外さなかった。自分の顔を隠す一枚の白い布が、今の服装にあまりにミスマッチなので、先程からヤヌアール邸に招かれた客の痛々しい目線に晒されている。それでもこれは絶対に外さない、外せないのだ。
兄さんはそれを分かっているので、それ以上深く言及する事はなかった。宴会がある度に交わされるこの会話は、最早恒例行事の様な物だ。正直迷惑極まりないが、これを繰り返す度に兄さんは何処か安心した様な表情を見せるので、何と無く咎める気になれず、こうした確認作業が継続されている。今もこうして兄さんは安堵した様子で、他愛の無い会話を広げ続けている。
そこへ、レースが目を引くクラシックな黒いパーティドレスで着飾った女性が俺達の間に入ってきた。彼女は俺と兄さんの顔を伺うと、満足そうに微笑んだ。
「ウノさん、ゼロさん。受付完了しましたから、中に入りましょう」
「分かりました、母さん」
「此処はもう社交場ですよ。ちゃんと名前で呼びなさい」
「……朝恵さん」
「宜しい」
名前を見て分かる通り、俺と兄さんの実母で、名門・仙浪家の現当主である。当主と言っても、事実上父が家の指揮を執っているので、ほぼ名前だけとなっている。これを言うと他人からは役立たずじゃないかと思われがちなのだが、実は彼女は天使界の中でもトップクラスの実力者で、大天使に最も近い人物とされている。つまり、家に居る事が極端に少ない母の代わりに、父が指揮しているだけなのだ。
なので、こうして母と顔を合わせるのは本当に久しぶりで、実に半年振りと言って良い。
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十二月三十一日(プロフ) - すふ丸【低浮上】さん» ご閲覧有難う御座います。そう言って頂けると光栄です。とても励みになります。内容が内容なだけにスローペースでの更新となりますが、今後とも応援宜しくお願いします。 (2018年6月8日 22時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
すふ丸【低浮上】(プロフ) - 突然のコメント失礼します。試験勉強の合間に読み返したくなるくらいお話が好きです(^o^)撫子さんとゼロさんの今後が凄く気になります!更新楽しみにしております、頑張って下さい! (2018年6月8日 21時) (レス) id: 5ecb48edcc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:
作成日時:2018年5月8日 23時