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後日 母と連れ立って彼のアパートに向かった。
母の選んだ菓子折は水色と白の、中に色とりどりの和風ゼリーが入った丸い最中だった。
そのこじまんりとしつつも美しい菓子を受け取りながら後頭部を搔く彼の慎ましい生活が垣間見える玄関先に心が鳴った。
深緑のスニーカーと黒い手入れの行き届いた革靴が二足、玄関先に揃えて置いてあり 小さなチェストには味のある真鍮の鍵置き その上にドッグタグのキーホルダーが付いた車のキーが丁寧に乗せられていた。
「本当にありがとうございました」
そうお辞儀をすると、彼は大きな手のひらを私の頭に乗せ
「元気ならそれでいい」
と優しい口調で言った。
随分と年上の彼のその行動は
兄弟のいない私にとって 気恥ずかしくも嬉しいものだった。
顔が赤くなるのを隠しつつ、彼のアパートを後にすると 母は小さく 良い子ね、と呟いた。
程なくして、大切に鞄に潜ませたメモを思い出し
その宛名を指でなぞると、込み上げてくる柔らかい想いを形にしたいと願い
私は初めての手紙をしたためた。
ミンユンギ様
先日は、本当にありがとうございました。
気分が悪い私を病院まで運んでくれた事、絶対に忘れません。
A
短い文章だったが、どうしても伝えたくて 幼いながらに頭をひねって 何度も書き直し、3日かけて完成させたその手紙を濃い茶色の封筒に入れ、ポストに投函した。
初めての経験に、高揚した気持ちで その日から暫く毎日のように自宅のポストを覗き込んだ。
1週間ほど経った日
一通の縦型の白い封筒がポストに入っていて
なぜだか直感的に彼からの手紙だと分かった。
さらりとしたその細い文字は 綺麗に整列していて見事なものだった。
私の名前を 彼がここに書く時 どんな気持ちだったのだろうと想像しては胸は高鳴った。
大切にその手紙を持ち、自室に行きほんの数ミリのところをハサミで丁寧に切り取った。
中から同じく縦型の質素な便箋が1枚出てきて 私は折り目がつかないようにそっとそれを開いた。
Aさん
わざわざ手紙をありがとう。
その後体調はどうですか。
学校生活は何かと大変なことも多いと思うけど
あまり無理せず過ごしてください。
ミンユンギ
同じく、短い文だったが その手紙を私は夜まで読み返し続けた。
擽ったいような、照れくさいような
読み返す度に違う色に見えるその手紙がたまらなく嬉しかった。
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K(プロフ) - ゆんぎそさん» コメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまい申し訳ございません。嬉しいお言葉をありがとうございます、時間が無くなかなか書くことが出来ていませんが励みになります。本当にありがとうございました! (2022年1月28日 11時) (レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
ゆんぎそ(プロフ) - 泣きました。もう、久々に感動して泣きました。心が震える素晴らしい作品を読ませていただき、本当にありがとうございました。 (2021年11月30日 1時) (レス) @page27 id: 4741346bef (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - hanakoさん» コメントありがとうございます!言葉の美しさ…本当に嬉しいお言葉をありがとうございます。今私生活が少し忙しくなかなか更新できずいますが、ちゃんと書き切ろうと思っておりますので、またそちらの方もお読みいただけると幸いです。 (2021年11月12日 12時) (レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
hanako(プロフ) - 今まで読んだ中で1番言葉で表せない感動と言葉の美しさを感じました泣 本当にいい作品です ありがとうございます泣 (2021年11月11日 2時) (レス) @page27 id: e7d310b575 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - Suzyさん» コメントありがとうございます!とても嬉しいです、本当にありがとうございます。なかなか思うように描き進められなかったのですがそう仰って頂けて書き切ってよかったと思います。 (2021年10月26日 11時) (レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2021年10月10日 8時