先生へ -YG-

15 ページ15

-----


帰り道はとめどなく溢れる疑問に整理がつかず、折角隣に彼がいるというのに 私は俯いたまま黙って歩いた。
しかし、
世界で一番幸せになる。
この言葉の重みだけは胸の奥にぐっと堪えた。
今まで、彼を基準に物事を決めてきた私は ついに両手を離され、真っ逆さまに崖下に転落したような気持ちになった。
ここからは自分で考えねばならない。
幸せの定義は学校では教えて貰えないのだ。
無論、先生である彼も それを私には教えてくれない。


｢試験、頑張れよ｣

彼の言葉ではっとして顔を上げるとそこにはぼんやりと自宅の壁が目に入った。
足元で、秋の内に片付けきれなかった木の葉がざっと音を立てた。

｢応援してる｣

そう言い、彼はポケットから小さなお守りを取り出し 私の手にそっと乗せた。

｢ありがとう‥‥ございます｣

先生。と一言加えると
彼は困ったように笑い、

｢手紙、待ってる｣

と呟いた。
帰り際にあの笑顔を見られなかったのは私のせいだった。


自室のベッドに仰向けになり、ついていない蛍光灯をじっと見つめる。
もっと他の言い方をしていれば、もっと感情的に気持ちを伝えていれば、
そんな不毛な考えが何度も現れては消える。
そして結局行き着くのは 出された宿題についてだった。

もうすぐ私は高校を卒業する。
その後に待つ未来で 自分が世界で一番幸せになるためには
何をどうしたらいいのか、皆目見当もつかなくて
勉強の追い込みもせず 私は静かに目を閉じた。
眠りに落ちる瞬間
少し前まで彼の部屋にいた自分に 微かに彼を感じた。

16→←14

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す