Dear.5 ページ7
あなたside
伊「・・・久しぶりだね。」
『え、あ、久しぶり・・・』
何を言われるんだろう。
そう身構えていた私の耳に聴こえてきたのは、さっきの怒ったような声じゃなくて、優しい声だった。
それからはまたお互いに喋らずに静かになる。
これは、私からも話しかけた方がいい?
そう思いながら顔をあげれば、慧はコーヒーを飲んでいた。
私の視線に気がつくと、カップを持ちながら小さく首を横に傾け、こっちを見ている。
その姿に無意識に彼の名前を呼んでいた。
『・・・慧』
伊「ん?」
会うことはないと思ってた彼が、目の前に居る。
この10年間、遠くに感じていた彼が私の言葉に反応してくれる。
それがすごく嬉しくて。
伊「どした?」
そう言いながら優しく微笑んだ慧は昔と変わらない。なのに、遠く感じる。
目の前に居るのに、私の手の届かない場所にいるみたいで。
『なんでも、ない』
伊「・・・・・・」
もう、幼い頃みたいに彼の隣には居られないんだ。
ふと、そう思った時だった。
〜〜〜♪
店内にスマホの着信音らしき音が響き渡った。
私のスマホじゃないから慧のかな?
伊「ごめん。
もしもし?」
電話に出ながら、席を立った慧。
その後ろ姿を見て、なぜ遠く感じたのか答えにたどり着く。
・・・アイドルのオーラがあるんだ。
私が知ってる慧じゃ、ないんだ。
そう思った時、慧が戻ってきた。
伊「A、ごめん。用事出来たから俺行かないと・・・」
『・・・うん。仕事頑張って。それじゃあ・・・』
もう二度と会わないだろうと、思いながらそう言って席を立ち、歩きだそうとした時だった。
伊「あ、そうだ。
A、スマホ出して」
『は?』
伊「いいから、早く貸して」
思わず可愛くない間抜けな声が出たのを慧は気にもせず、私の前に手を出した。
何をする気かわかんないけど、とりあえずスマホを慧の手のひらに載せた。
それから自分のスマホと私のスマホを両方操作しはじめ、暫くして操作していた指が止まった。
伊「はい。俺の連絡先、登録しといたから。あとLINEも」
『は?』
伊「返信とか電話とか気づくの遅れるかもだけど、いつでも連絡してきていいから。んじゃあね〜」
『え、ちょっと・・・!』
手をひらひら振りながら慧は店を出ていった。少し強引なところは変わってない。
その事に私は少しだけ彼を近く感じられ、笑みがこぼれた。
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作者名:永遠色 | 作成日時:2017年10月25日 0時