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馬鹿だって言ってくれないか。
そう言われたら、
許された感じがする。
死んだか。
鈍い目を開くと自室だった。
無機質に見えた部屋は、猫が一匹玄関にいるだけだった。
パソコンのパネルが光りだすと、独特の音が部屋を支配した。
部屋にあったものが少しずつ消えていく。
検査エンジンには猫ばかりだった。それも少しずつ消えた。
その上から別の猫のサイトが上書きされていく。
私は誰か。
そんな問いがふと生まれ消えて行った。
その代わり新しい問いが生まれた。
猫好きの飼い主の家なのか。
猫は鳴いて笑う。
『名前はなんていうの。喋れないの。
そうか、君は生きているんでしょう』
独り言が過ぎていく。
『君も可哀想だね。飼い主はいないの。
私と一緒で一人か。
なら名前つけようか』
猫は顔を見せてくれない。
『しま、とかは……駄目だ、シマウマみたいだ。じゃあ、とら、強そうでしょう』
猫が頭を傾けた。
『とら』
愛らしく振り向いた仕草が、誰かに重なった。
『見たことありそうな顔だね、君』
ただ熱過ぎる液体が溢れた。
窓の外は晴れていた。
階段を登る音が聞こえる。
『とら、お迎えみたいだよ』
知っている音な気がした。
『とらは一人じゃないんだ。一緒じゃなかったね』
扉が開く。
開く前に私は消えた。
夢か現実か。
私は誰か。
そうじゃない。
私は今、幸せだ。
それでいい。
それだけでいい。
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作者名:黒い狢 | 作成日時:2019年8月27日 0時