検索窓
今日:3 hit、昨日:5 hit、合計:20,118 hit

0→100 #松川 ページ2

目が覚めたら知らない部屋にいたって、お伽噺のようなものだと思っていた。


ガンガンと鐘の音が鳴り響くような頭痛に顔を顰めながら、ダークブラウンの柔らかい毛布を跳ね除ける。センスのいいデザインの寝室のベッドの上で眠りこけていた私は、一層顔を引きつらせた。ここはどこだろう。窓から射し込む柔らかい光だけが、朝、もしくは昼の訪れを明確にしていた。


服は着ている。ジャケットだけはハンガーにかけられていて、しわくちゃにならずに済んでいた。


確か昨日は会社の飲み会だったはず。それで……


『今回も頂きデース』


……あぁそうだ、私の提出した企画がまた通らなくて、ヤケ酒をしてしまったのだった。
私には、一方的にライバル視している男がいる。ソイツは仕事ができる男で、上司からの覚えも良ければ後輩からの評判もいい。私だってそうだ。ただ、奴の方がちょっとだけ上。だから余計悔しい。


そして何より気に食わないのは、異性にとてもモテる男だということ。こちらは残念なことに、勝負にならない。女の子に詰め寄られてもニコニコして動じない、如何にも女慣れしていそうな態度が凄く嫌だった。


途端に胸の内に黒いモヤモヤが広がる。ぽすぽすと毛布を叩けば、ふわふわと柔らかく波打った。
とにかく、動かないことには何も始まらない。わざわざ自分の家にまで運んでくれたということは、同僚の可能性が高い。そうじゃなくても、確実に知り合いだろう。


その時、ガチャリと寝室の扉が開いた。いきなりのことで小さく悲鳴をあげるが、相手の顔を認識した瞬間、別の意味で悲鳴をあげた。


「あ、起きてる」
「ま、松川!?」


私の慌てぶりに不思議そうに小首を傾げるこの男が、私のライバルである松川一静だ。私の顔は一気に青ざめた。最悪だ、この男にこんな醜態を晒してしまうなんて。毛布を握りしめて俯くと、「ちょいちょい、なんでそんなに焦ってんの」とベッドに腰掛けて私の顔を覗き込んだ。


「うるさいうるさい! アンタ、私に何もしてないでしょうね!?」
「は? 何もしてないもなにも……おい、まさか何も覚えてないとか言わないよな?」


意味深なその言葉に、思わず硬直してしまう。
松川はグッと眉根を寄せて、私を睨みつけている。ここまで不機嫌そうな顔を見たのは、初めてかもしれない。


やがて大きくため息をつくと、「俺はまた一からお前に教えなきゃいけないってことね」と乾いた笑みを浮かべた。


何よ、教えるって。
 
 
 

*→←目的地は逆方向 #黒尾



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (63 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
56人がお気に入り
設定タグ:ハイキュー , HQ , 短編集
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

志織(プロフ) - mokyunさん» コメントありがとうございます!松川くんのこのお話はいつか書きたいなーと思っていたのですが、せっかくなので短編集に載せました。お気に召して頂けたようで良かったです!他のキャラも色々書こうと思っていますので、ぜひ楽しんでいってください! (2018年1月22日 21時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
mokyun(プロフ) - どのお話もステキですが、特に大人のまっつん。いいですね… 外堀から埋めていって、逃げられないね?どうする?っみたいな!? 他にどんな男子がでてくるのか楽しみです! (2018年1月22日 2時) (レス) id: e5a3b0aa31 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:志織 | 作成日時:2018年1月14日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。