後悔 ページ10
懐かしい夢だったなあ、と図書館から帰る道でふと思い出す。奈緒子の方が可愛いよって、優しく笑ってくれたことが本当に嬉しかったのだ。そういえば母はいつもいつも言っていた。お母さんは奈緒子が一番可愛いんだよ、と。
(……久しぶりに、アルバムでも見ようかな)
母が生きていた頃のことは、あまり覚えていない。けれど、幾つかの思い出は鮮明に残っている。アルバムを辿れば、もしかしたら芋づる式に色々なことを思い出すかもしれない。
確かリビングの収納に入っているはず。日中のがらんとしたリビングは、まるで生活感がない。自分の痕跡もなければ、父の痕跡もなかった。
何冊かある内の一冊を取り出して、部屋に戻る。表紙に書かれた「奈緒子 1」の文字を指で辿った。母の字だ。しばらくぼうっとそれを見つめていると、アルバムが擦り切れ、だいぶ傷んでいることに気がついた。ここ数年間引っ張り出さなかったからだろうか。
ドキドキしながらアルバムを開いた。
私の写真が一番多くて、次に私と母のツーショット。写真を撮るのはいつも父だった。たまに母や太一さん、父の友人だという人達に私と父、母の写真を撮ってもらっていた。
これは家族で温泉に行った時。これは保育園の運動会。これは7歳の誕生日の時。
1ページ1ページ、思い出を探り当てるように見続ける。これは、あれは、それは。もちろん思い出せないものも多いけれど、そこに詰まっているのは大切なものばかり。
しんと静まり返った空間にやがて西日が射し込む。時折ペラリとページを捲る音が部屋に響いた。
笑顔ばかりの家族だったはずだ。
今はその頃の面影は欠片もない。母がこんな現状を見たなら、なんと言うだろうか。ありもしないことを想像して、溜息をつく。
それにしても、懐かしいものばかりだったなぁ。そう思いながら、残り少ない紙を捲り続けた。
――一番最後のページに書かれていた母の文字に、思わずアルバムを投げ捨てた。脆くなったアルバムから、数ページが切り離されるようにポロリと抜け落ちた。
『これからも三人で笑顔で暮らせますように!』
母のその言葉は本心だろう。けれど結局理想でしかなかった。ああ、アルバムなんて見るんじゃなかった。
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エリウ - めちゃくちゃ感動しました、その作品を作ってくれてありがとうございます!! (2021年5月29日 20時) (レス) id: 69d516a85e (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - すずさん» 父と娘、という題材で書かせて頂いたのは初挑戦だったので、泣けるというご感想を頂けて本当に嬉しく思います。この作品を見つけて、コメントまでして頂いて、本当にありがとうございました! (2018年11月11日 9時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 最近見つけて読ませていただきました。めちゃくちゃ泣けました! (2018年10月29日 17時) (レス) id: c7b6d2922b (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - りょうさん» 父娘ものって本当に難しい…!と思いながらキャラクター達の葛藤を執筆していたので、「素敵だ」と言って頂けて感謝しかございません。自分の書く文を好きと言ってもらえて、嬉しくない人はいないと思います。閲覧ありがとうございました! (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - あるてぃめっつさん» コメントありがとうございます!これでいいのかなと頭を悩ませて執筆した作品ですので、「伝わった」というお声を頂けて安堵しております。感動して頂けたのならこれ以上ないくらい、書き手として最高なことです。こちらこそ、閲覧して頂きありがとうございました! (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:志織 | 作成日時:2017年11月3日 14時