感謝 ページ26
「…そうか、じゃあ仲直りできたのか。頑張ったじゃねえか」
偉いぞ、そう快活に笑って岩泉さんは私の頭を乱暴に撫でた。
他人の私の話を聞いて、アドバイスまでしてくれた親切な人だ。父や太一さんと向き合う事ができたと報告をしなくてはと思っていたが、連絡先を知らないのでどうしようもなかった。家も一度行っただけで道も覚えていない。悩んだが、お礼の品を持ってよく顔を合わせる墓所に行けば、ようやく会うことができた。不躾かもしれないが、連絡手段もないのだから仕方がない。
菓子折りを渡して帰るつもりが、ジュースを奢ってもらってしまった。少し申し訳ないと思ったけれど、暑い中で飲むキンキンに冷えたジュースは美味しい。汗で髪の毛が額に張り付いたのを、鬱陶しく払いのけた。
木陰のベンチで涼みながら、ぽつりぽつりと近況を話す。
「実は今度、おばあちゃん達に会うことになって。もう何年もあってなかったんですけど、ちゃんと喋れるかちょっと不安で」
「ほー、そうか。ま、なるようになんだろ。慣れだ慣れ」
「慣れですか」
「おう。お前いい子だし、そんなに心配することねーよ」
ごくごく、と喉を鳴らして岩泉さんは缶コーヒーを飲み干した。父はこの人ほど喉仏は出ていないな、なんてくだらないことを考えて、私も一気にジュースを飲み干す。
「コレあんがとな。わざわざ菓子持ってきてくれて。大和達も喜ぶわ」
「いえ、こちらこそ本当にありがとうございました。奥さんと大和くんにも、よろしくお伝えください」
「わかった。…帰っか。送るわ」
「大丈夫です、日中なので。お気持ちだけで」
「子供が遠慮すんじゃねぇよ、送らせろ」
ポケットに両手を突っ込んで岩泉さんは歩き始めた。男前だなあ、と思いながら、「ありがとうございます」と呟けば、「おう」とだけ答えた。やっぱり男前だ。
他愛もない話をしながら帰路を辿る。家について別れるところで、岩泉さんはふと思い出したようにポケットを漁る。取り出したのは少しくしゃりと折れ曲がった小さな紙切れで、彼はそれを私に差し出した。そこには数字の羅列が記されている。
「…電話番号…？」
「会ったら渡そうと思って持ち歩いてたんだ。家の電話だけど、なんか困ったことがあれば連絡寄越せ。力になれるかもしれない」
じゃあ帰るわ、と言って背を向けた岩泉さんにお礼を言えば、彼は片手を上げてそれに応えた。
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エリウ - めちゃくちゃ感動しました、その作品を作ってくれてありがとうございます!! (2021年5月29日 20時) (
レス) id: 69d516a85e (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - すずさん» 父と娘、という題材で書かせて頂いたのは初挑戦だったので、泣けるというご感想を頂けて本当に嬉しく思います。この作品を見つけて、コメントまでして頂いて、本当にありがとうございました！ (2018年11月11日 9時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 最近見つけて読ませていただきました。めちゃくちゃ泣けました！ (2018年10月29日 17時) (レス) id: c7b6d2922b (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - りょうさん» 父娘ものって本当に難しい…！と思いながらキャラクター達の葛藤を執筆していたので、「素敵だ」と言って頂けて感謝しかございません。自分の書く文を好きと言ってもらえて、嬉しくない人はいないと思います。閲覧ありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - あるてぃめっつさん» コメントありがとうございます！これでいいのかなと頭を悩ませて執筆した作品ですので、「伝わった」というお声を頂けて安堵しております。感動して頂けたのならこれ以上ないくらい、書き手として最高なことです。こちらこそ、閲覧して頂きありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：志織
| 作成日時：2017年11月3日 14時
