父娘 ページ25
ようやく向き合えたものの、背を向けていた時間が長すぎてそわそわとしてしまう。じんわりと滲む汗を拭っていると、突然父が私を抱き上げた。
「えっ、な、なに？」
「お前病人だから、さっさと寝かそうと思って」
「自分で歩けるよ」
「辛いだろ」
さっき寝たからかなり元気だし、岩泉さんの家でココアも頂いたし、太一さんやお父さんときちんとお話できたし。
気分は爽快と言ってもいい。
熱ももう下がってるかもしれない。
けれど。
「…うん、ありがとう」
久しぶりの家族の温もりを、手放したくなかったから。
私はそう、嘘をついた。
「大きくなったな」
「うん」
「重くもなった」
「成長したからね」
「早いもんだな。嫁にいくのもきっとすぐなんだろうな」
「まだ結婚できるかわからないよ」
「できるよ。父さんにはわかる」
「変なの」
首に腕を回して抱きついてみる。中学生にもなってみっともないと、そう思われるかもしれない。それでもいい。父の体温は私よりも少しだけ低くて、それがじんわりと心にしみていく。
この数年間、父娘らしいことなんてできなかったから。少しくらい我儘でもいいと、気づけたから。
父は私の背をポンポンと優しくたたく。開けっ放しの扉から部屋に入って、私をそっとベッドに降ろした。
夏用の薄い掛け布団を被れば、父がベッド脇に膝をつく。
「ゆっくり寝て治せよ」
そう言って、優しく前髪に触れた。
少し前髪を払って、綺麗に整える。ああ、そうか、そういうことだったのか。
「…お母さんの、夢をみてるんだって思ってた」
「ん」
「お父さんだったんだね」
「……いいだろ別に」
照れているのか、首元に手をやりながらぶっきらぼうにそう言う。冷房はきいているけれど、その顔はほんのりと赤みを帯びていた。
「お父さん」
「ん？」
「おやすみなさい」
「……おやすみ、奈緒子」
幸せ、だなあ。
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エリウ - めちゃくちゃ感動しました、その作品を作ってくれてありがとうございます!! (2021年5月29日 20時) (
レス) id: 69d516a85e (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - すずさん» 父と娘、という題材で書かせて頂いたのは初挑戦だったので、泣けるというご感想を頂けて本当に嬉しく思います。この作品を見つけて、コメントまでして頂いて、本当にありがとうございました！ (2018年11月11日 9時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 最近見つけて読ませていただきました。めちゃくちゃ泣けました！ (2018年10月29日 17時) (レス) id: c7b6d2922b (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - りょうさん» 父娘ものって本当に難しい…！と思いながらキャラクター達の葛藤を執筆していたので、「素敵だ」と言って頂けて感謝しかございません。自分の書く文を好きと言ってもらえて、嬉しくない人はいないと思います。閲覧ありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - あるてぃめっつさん» コメントありがとうございます！これでいいのかなと頭を悩ませて執筆した作品ですので、「伝わった」というお声を頂けて安堵しております。感動して頂けたのならこれ以上ないくらい、書き手として最高なことです。こちらこそ、閲覧して頂きありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：志織
| 作成日時：2017年11月3日 14時
