愛故 ページ23
おめでた婚、というやつだった。
20の時に美代子が子供を宿して、すぐに大学をやめて働き始めて。結婚式は挙げなかったが、美代子はそれでも結婚できて嬉しいのだと、弾けるような笑顔で笑ってくれた。親とは大喧嘩した。母と俺、頑固で不器用な性格が災いして、随分前からほぼ絶縁状態だ。なぜか連絡を取り合っている太一が言うには、奈緒子や美代子、俺のことを相当気にかけてくれているらしい。けれどどうしたらいいのかわからずに、かれこれ何年という時間が過ぎてしまった。
そんな両親と会ったのは、美代子の葬式の時だった。
『あちらのご両親が、奈緒子を引き取りたいって…』
頭をガツンと殴られたような衝撃。
まるで耳に水が入り込んでしまったように、周りの音全てがくぐもった。だって、あの子は今の俺の総てで。今なお愛している美代子との、愛しい子供で。…あぁでも、愛しいと思うからこそ引き取ってもらった方がいいのだろうか。冷たくなった指先を必死にさすって、か細く息を吸い込んだ。この先俺と二人でいるなら、あの子はきっと寂しい思いをするだろう。何も会えなくなる訳じゃないんだ。だったら、この子が幸せになれる選択肢を――。
「おとうさん」
奈緒子は泣かなかった。呆然と遺影を見つめる姿は、何よりも痛ましくて。…俺を呼ぶ子供を、やはり俺は引き離すことなどできない。
精一杯抱きしめて、涙を流した。そんな俺を見て、酷く痛ましそうな表情をした太一を今でもよく覚えている。
「俺、やっぱ奈緒子と一緒にいてえわ…っ」
その後俺は、必死に美代子のご両親に頼み込んだ。
『お願いします、俺からこのこを奪わないでください』
俺の必死でみっともない姿に、美代子のご両親は渋々ながらも引き下がってくれた。
それから年月が経って、それでも傷は癒えず。奈緒子との溝は広がっていく。
誕生日プレゼントを渡せないまま自分の部屋のクローゼットにしまいこんだ。アルバムも擦り切れるほど見返した。そのせいか、最近では酷く傷んでしまったけれど。
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エリウ - めちゃくちゃ感動しました、その作品を作ってくれてありがとうございます!! (2021年5月29日 20時) (
レス) id: 69d516a85e (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - すずさん» 父と娘、という題材で書かせて頂いたのは初挑戦だったので、泣けるというご感想を頂けて本当に嬉しく思います。この作品を見つけて、コメントまでして頂いて、本当にありがとうございました！ (2018年11月11日 9時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
すず - 最近見つけて読ませていただきました。めちゃくちゃ泣けました！ (2018年10月29日 17時) (レス) id: c7b6d2922b (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - りょうさん» 父娘ものって本当に難しい…！と思いながらキャラクター達の葛藤を執筆していたので、「素敵だ」と言って頂けて感謝しかございません。自分の書く文を好きと言ってもらえて、嬉しくない人はいないと思います。閲覧ありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
志織(プロフ) - あるてぃめっつさん» コメントありがとうございます！これでいいのかなと頭を悩ませて執筆した作品ですので、「伝わった」というお声を頂けて安堵しております。感動して頂けたのならこれ以上ないくらい、書き手として最高なことです。こちらこそ、閲覧して頂きありがとうございました！ (2018年1月8日 15時) (レス) id: f90efcc153 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：志織
| 作成日時：2017年11月3日 14時
